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ミステリの祭典

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愛人関係

作家 笹沢左保
出版日1976年09月
平均点5.00点
書評数1人

No.1 5点 人並由真
(2023/06/19 17:26登録)
(ネタバレなし)
 大手商社「日興倉石」に勤務する23歳の美人OL・剣城夕子は、三百年近くも続く老舗の和菓子屋「夕月堂」の長女でもあった。夕子の父で夕月堂の当主でもある54歳の久太郎は、彼が眼をかけてる若手菓子職人・磯部達也と夕子が夫婦になって店を継いでくれることを望んでいた。だが夕子にはそんな気はまるでなく、それどころか彼女は別の部署の同僚で妻帯者でもある35歳の青年・伊集院夏彦に2年前に処女を捧げ、それ以来ずっと実家にも世間にも秘密の愛人関係を続けてきた仲だった。そんななか、夕月堂が同家とはまったく関係のなさそうな殺人事件に巻き込まれ? さらに夕子と伊集院の愛人関係にも、不測の事態が生じた。

 日本でいちばん「愛人」というキーワードをタイトルに用いたであろうミステリ作家・笹沢佐保のラブロマン・ミステリの一冊。光文社文庫版で読了。 

 二号や妾はパトロンからお金をもらうが、愛人は心身の純愛で結ばれているから高潔だとか、情人に奥さんと別れて私と結婚してほしいなどという女の欲求は、生活のために体を売る娼婦と同じだとかいうメインヒロイン(主人公)夕子の主張は、大昔に同じ作者の『愛人岬』で、似たようなヒロインの物言いを読んだような記憶がある。ぶれない笹沢ラブロマン。

 ブックオフの100円棚で手にしたら、解説で武蔵野次郎がラストの意外性が印象的とか書いている。それで購入して読んだが、さほどでもない。犯人もストーリーの流れと登場人物の配置、さらには作者の手癖からおおむね予想がつくし。
 ただし途中の細部での話の転がし方は、部分的には曲があってそこそこ面白かった。
 窮状に陥った夕子のため、彼女が秘密にしていた愛人の立場を鼻白みながらも、剣城家の家族がほぼ一丸となるあたりは、この時期の笹沢作品らしい。不器用な家族の絆は、笹沢作品の底流にある文芸テーマのひとつだ。

 評価はこれもまさに「まぁ楽しめた」なので、この評点。

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