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ミステリの祭典

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ホワイトデス
海洋生物学者・渋川まり

作家 雪富千晶紀
出版日2023年04月
平均点8.00点
書評数1人

No.1 8点 人並由真
(2023/06/12 19:38登録)
(ネタバレなし)
 その年の二月。23歳の若手漁師が被害にあい食い殺されたのを皮切りに、瀬戸内海では6m以上の体躯を誇るホホジロザメ(異名ホワイトデス)が人間を襲ったり、あるいは危険に晒される事態が続発する。現在の瀬戸内海には三体のホホジロザメ「トール」「ロキ」「ヘラ」が迷い込んでおり、なぜか彼らは外洋に出ていこうとしなかった。漁を制限された漁師の間で不満が高まるなか、息子を殺された初老の漁師・磐井盛男は復讐を誓い、一方で海洋生物の保護を願う久州大学の女子大生・水内湊子(そうこ)は、ホホジロザメが近海に留まる理由にある仮説を抱く。だが、そんな間も事態は緊迫し、さらなる犠牲者を生じさせていた。

 作者の先行作で、内陸の湖に巨大サメが出現した怪獣小説『ブルシャーク』の続編。本作の主人公は、息子を殺された漁師の盛男と海洋学者の女子大生・湊子の二人だが、前作の主人公格の一角で海洋生物学の准教授・渋川まりもメインキャラ(というか三人目の主人公)の立場で再登場する。
 ちなみに前作の事件から一年半後という設定。

 主役怪獣(内陸のサメ)の設定から始まって全体に独特の新鮮さを感じさせた前作に比して、正直、今回はどこかで見たような要素のパッチワーク感が濃厚。
 ホホジロサメがなぜ近海に留まるのかの真相も、多面描写を駆使した群像劇風の作劇も、そして明かされる事態の真相も、それぞれ既視感が強い。

 ただしその上で、読んでいる間は非常に面白く、その「読んでる最中の面白さと高揚感」にもしも等級があるというのなら、これは正に特Aランク。S級のオモシロさであった。
(もし楽しめなかった人がいたとしたら、どっかでこの作品の持つファクターに摩擦感を生じ、サメてしまった読者であろう。それは仕方ない。)

 今回は良くも悪くも王道を狙った感はあるが、ボリューム感は体感として前作の3倍以上。
 読後に作者のネットインタビューを読むと、まだまだこの路線は続けたいみたいなので、十分に準備を整えてからシリーズの第三弾が登場することを願う。

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