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ミステリの祭典

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まるで名探偵のような 雑居ビルの事件ノート

作家 久青玩具堂
出版日2023年06月
平均点6.00点
書評数1人

No.1 6点 人並由真
(2023/08/27 08:12登録)
(ネタバレなし)
「俺」こと男子高校生の小南通(こみなみ とおる)はある日、雨宿りのため、雑居ビルの喫茶店「るそう園」に足を踏み入れた。そこで通は、ひとりの男性客が語る奇妙な謎に心を惹かれ、不躾とは思いながら一つの解釈を提示。当の客たちの心を動かす。だがその場には、もう一人の「名探偵」がいた。

 一部で話題のラノベ・ミステリ「探偵くんと鋭い山田さん 俺を挟んで両隣の双子姉妹が勝手に推理してくる」シリーズの作者・玩具堂が、もう一つの在来のペンネーム「久青玩具堂」で著した新作の連作短編ミステリシリーズ。
 全5本が収録されるが、最初の一本のみが「紙魚の手帖」に掲載。続く4編はみな、書き下ろしである。

 中味は、青春ミステリの大枠で、実質は日常の謎もの、しかし不可能犯罪の密室殺人にも針が振れるという、なかなかバラエティ感に富んだ内容。
 その辺はたぶん、作者が読者を飽きさせないようにサービスしているのと同時に、本人があれこれやりたいことをやっている感じで読んでいて心地よかった。
(実際、全5編、中味の多様さを楽しみながら、あっという間に読み終わっていた。)
 個人的には、その魅力的な「連続密室殺人の謎」を提供した第三話がベスト。(真相はいささか(中略)だが、まあそれはそれで、この作品の場合はアリ……か?・笑)
 それと2話のロジックというか着想は、うん、そーだよね、と、かなり共感できるという意味合いで、おもしろかった。
 ちなみに事件はみな、雑居ビルの周辺の人物から持ち込まれる形式になっている。

 あと、連作短編ミステリとしては、各話の幕引きにちょっとした仕上げの工夫がしてあり、そこら辺は人によってはなんということもないものかもしれないけれど、自分などは悪くはない作りだと思う。 

 シリーズというか、この主人公たちの物語は、まだ本当に始まったばかり、という感じで(何しろ、二人の主人公の片方の文芸設定ばかりに筆致が費やされ、もう一方に関してはほとんど掘り下げられずに終わった。まさかこれで終わりってことはないよね?)、その意味でもなかなかヒキの強い一冊。
 適度に早く続きを書いてください、ということで。

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