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ミステリの祭典

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北太平洋の壁
酒巻茂樹&南郷範夫

作家 福本和也
出版日1989年10月
平均点6.00点
書評数1人

No.1 6点 人並由真
(2023/06/05 14:55登録)
(ネタバレなし)
 1989年5月4日、ワシントンのシアトルで4人の日本人が射殺された。被害者はそれぞれ日本で純金売買投資にからみ、老人からあくどい詐偽を働いていた商社犯罪の中核らしい。シアトル警察の捜査で容疑者が浮上する。が、その容疑者当人は、すでに4月の末に日本に向かうヨットでの太平洋横断の航海に出ており、やがて日本に到着するはずだった。どんなに急いでも相応の日数がかかりアリバイは保証され、最短距離とされる北太平洋ルートなら、ぎりぎり引き換えしての犯行は可能だった可能性もあるが、その北太平洋ルートは荒海、濃霧などの超難関航路で、現実にはその航路もまた無理のはずだった?

 太平洋航海を股にかけたアリバイ崩し、という趣旨の裏表紙での煽り文句が面白そうだったので、ブックオフの100円棚でしばらく前に文庫版を購入。今回読む。

 当初から容疑者が絞られるアリバイ崩しものなので、フーダニットの興味は薄いハウダニットパズラー? それとも……とか、ちょっと期待して読む。

 良くも悪くも通俗ミステリ作家としての実績が長い作者で、しかもたぶん現実にあった昭和末期の大手詐偽事件をネタにしているらしいので、ガチガチのパズラーという訳でもなく、読み物としての雑駁な要素も多い作品。
 しかも主人公の探偵役はメインどころが二人登場し、ひとりは本庁二課のベテラン刑事・南郷だが、もうひとりは、大物ヤクザの息子(今は、父から受け継いだ組を表向きはクリーンな会社にしているが、実質的にはやっぱり裏社会の人間)で同時に国際線のパイロットでもある美青年・酒巻(新本格のキャラものみたいに、人物設定を盛りすぎである)で、その酒巻の設定をもとに、作者の十八番の航空ネタの話題も広がっていく。

 ただし中盤以降もパズラーの本分をまったく忘れたわけではなく、途中で大ネタを明かし、謎解きものとしてはここで底を割って、あとは完全に通俗ミステリか? と思いきやそこでまたひっくり返し、広義の不可能犯罪パズラーの興味を煽る。あんまり詳しく言っちゃいけないけれど、この辺はなかなか面白かった。

 とはいえ事件の真相に関しては、アレヤコレや……のパターンで、まあそっちでしょうね、という感じ。まあそれはそれで、それなりに楽しめた。全体としては佳作、くらいか。
 なお思わせぶりに書かれたプロローグが(以下略)。これって、まったくの計算違いか構想の破綻の結果だよね? この部分は、カットしてもよかったのでは?

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