home

ミステリの祭典

login
マカリーポン

作家 岩井志麻子
出版日2012年04月
平均点6.00点
書評数1人

No.1 6点 猫サーカス
(2023/05/31 18:11登録)
いかにも慣れた手つきでこしらえた凡庸なホラーとは全く違う。もっと根源的な人間の業や、この世界に満ちている違和感を鮮明な輪郭で描いた作品である。私小説的なスタイルで語られるために妙な既視感が伴う。かつてアダルト業界に身を置き、人間のおぞましさに関するオーソリティーみたいな編集者が狂言回しになるところが「ここまでヒトはとんでもない存在なのか」と実感させる装置として機能し、リアルさを高めている。ストーリーは、近所に住む奇妙な姉妹との出会いから始まり、やがてタイ国の闇の空間へと広がる。実際に起きた事件との関連も示唆され、不穏なトーンが次第に高まってゆく。短編小説が各章に挟み込まれ、物語を紡がずに入られないは著者の欲望が人間の「あさましさ」とシンクロしていくところが怖い。書名のマカリーポンとはタイに伝わる半人半植物の妖精。木からもいだそれを男たちは妻にするが、七日の内に男は気を失い、マカリーポンは萎んで死ぬ。死ぬ間際に「ワクワク」という声を上げるという。いったいどんなイントネーションで、どんなトーンで「ワクワク」と叫ぶのか。その叫びを想像し、可憐で不気味でたまらないと書く。まさにそんな動揺と妖しさが本書には満ちている。

1レコード表示中です 書評