(2023/05/31 08:00登録)
(ネタバレなしです) 小峰元(1921-1994)は「アルキメデスは手を汚さない」(1973年)以降の長編ミステリーが知られていますが元々は短編作家だったそうです。「アルキメデス」以前にどれだけの短編を書いたのかわかりませんし入手して読むのも困難なようですが、1981年発表の本書は1979年から1980年にかけて雑誌掲載された8作のユーモア本格派推理小説を収めた短編集なので短編作家としての実力を推し量るのには適材かと思います。講談社文庫版の風見潤による巻末解説では「連作長編」と評価していますが同じ探偵役(72歳の祖母(作中表記はバアチャン))と語り手(孫の大学受験生)が全作で活躍し、先行作の登場人物が後発作で再登場したりしていますが作品全体にまたがる仕掛けはあまり感じられませんでした。この作者としては謎解き手掛かりに配慮して推理に主眼を置いた正統派の本格派揃いで、ヘシオドスおたくの祖母の教育的指導がなかなか愉快です。語り手の孫が内心ではぶつぶつ不平を言いながらも「一家の平和のために」愛想よく振舞っているので小峰作品としては最も雰囲気が穏やかな作品ではないでしょうか。他愛もない謎解きもありますけど、最終作の「マツタケは食いたし命は惜しし」は複雑なプロットでなかなかの力作です。
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