home

ミステリの祭典

login
悪魔のワルツ

作家 フレッド・M・スチュワート
出版日1993年04月
平均点7.00点
書評数1人

No.1 7点 人並由真
(2023/05/24 16:37登録)
(ネタバレなし)
 1960年代後半のニューヨーク。かつてピアニストを志しながら挫折した32歳の青年マイルズ・クラークソンは、今は、元学友だった愛妻ポーラと支え合い、7歳の愛娘アビーを慈しみながら、文筆業に励んでいた。そんなある日、マイルズは、マスコミ嫌いで知られる70歳代の世界的に高名なピアニスト、ダンカン・エリーの取材の許可をもらう。対面するとダンカンは以前にピアニストだったマイルズの経歴に興味を抱き、そして彼の指に関心を見せてくる。やがてマイルズはポーラともども、ダンカンと彼の美しい娘ロクサーヌの周辺の上流階級の集まりの場に招かれるようになるが……。

 1969年のアメリカ作品。未来設定のSFから、純然たる青春小説? まで幅広い作風の著作を残した(著作数はそんなに多くない?)作者フレッド・マスタード・ステュワートのデビュー長編で、60年代後半~70年半ばの第一次モダンホラーブームを代表する名作長編のひとつ。なお作者スチュワート自身も、一時期はコンサート・ピアニストを目指した経歴があるらしい。

 評者は本小説は今回が初読だが、ウン十年に(たぶんテレビ放映か何かの機会で)本作の映画化作品は観ていたのを半ば忘れていて、当時いっしょに観た記憶のある家人にその事実を指摘されて思い出した。言われてみれば、映画の後半の印象的なビジュアルイメージなど、甦ってくるような気もする。
 
 都会の中の(中略)というモダンホラーとしての大設定でいえば、『ローズマリー』の原作が67年、同じく『エクソシスト』が71年だから、これはちょうどその中間の作品。
 
 本作の(中略)が何をやりたいかは、早々に読者の誰の目にもまずわかってくると思うが、一応、ここでは黙っておく。評者は、日本の某・怪奇漫画家の有名作品を思い出した。
 文体は非常に読みやすく、特に序盤の方は会話ばかりで紙面が埋まり、良くも悪くも軽い軽い。しかし作中のリアルとしては静かに地味に、結局は確かに怪異は進行していくので、その辺の呼吸に慣れてくると、これはこれでうっすらと体温が下がってくる。

 邦訳の元版(ハードカバー)が刊行された1971年当時、ミステリマガジンの新刊評で松坂健が取り上げていて、『ローズマリー』などより通俗っぽいといった主旨のことを言っているが、よくわかる。個人的には、『エクソシスト』がキングなら、こっちはクーンツという感じだ。
 
 半世紀も前のこのジャンルでの新古典なので、展開は2020年代の目で見るとお約束の部分も多く、先読みできるところも少なくないが、王道のモダンホラーのクラシックというつもりで付き合うならば、それなりにというか普通に楽しめる。
 この手のジャンルのものがスキな人なら、(大傑作などは期待せず、里程標的な「名作のひとつ」に接する気分で)一度は読んでおいていいかとも思う。
 評点は0.25点くらい加点。

1レコード表示中です 書評