航空救難隊 |
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作家 | ジョン・ボール |
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出版日 | 不明 |
平均点 | 6.00点 |
書評数 | 1人 |
No.1 | 6点 | 人並由真 | |
(2023/05/21 07:16登録) (ネタバレなし) 強烈なハリケーンがカリブ海のトレス・サントス島に迫るなか、民間航空巡察隊所属の小型飛行機パイロット、リチャード(ディック)・ロイド・シルヴェスター大尉は、相棒のエドマンド(エド)・ピーター・チャン中尉ともども、小型機を島に不時着させる。もともと海上遭難者を捜索するため、近くの海域を小型機で飛行していた二人だった。両人は、故障した小型機で島からの離陸は困難になるが、島には民間航空会社の四発エンジンの大型旅客機「スーパー・コンストレーション(コニー)型」が、なぜか関係者も不在のまま残されていた。そして島の宣教師フェララ神父は、医者もいないこの島に、盲腸炎の若者と大やけどを負った少女、二人の急患が出たのだとシルヴェスターたちに訴え、この大型機でアメリカ本土に急行するよう願い出る。小型機しか操縦の経験のない二人は意を決して、患者たちを乗せたコニーを離陸させるが、ハリケーンの猛威を恐れたフェララ神父は善意の独断で、80人近い島の住民全員を機内に収容させていた。そしてさらに、放置されていたコニーには、とある重大な秘密があった。 1966年のアメリカ作品。 アメリカ空軍で操縦教官をしていた経験もある作者ジョン・ボールが蘊蓄を傾けた、リアル派航空冒険小説の名作。 かの(ディック・フランシス作品ファンとして高名で、もともと大のミステリファンだった)俳優の児玉清が生前に、最も好きなポケミスの一冊に本作を選んでいたとも記憶する。 もちろん通常の意味の狭義のミステリ(推理小説)の要素などカケラもない純然たる冒険小説であり、しかも悪人はおろか敵役の登場人物すらひとりも出てこない。そんな悪役・敵役不在のポケミスといえば、たぶんこれと、シャーロット・アームストロングの『毒薬の小壜』くらいだけなのではないか? (……と言いつつ、まだもうちょっと何かありそうだな?) で、内容の方は期待通りによく練られた、航空サスペンス冒険小説であり、さらに同時に見事なヒューマンドラマ……なのだが、しかしてその一方で、かなりの部分が、航空冒険小説の先駆の名作、ヘイリーとキャッスルの『O-8滑走路(714便応答せよ)』に似通ってしまってるのが、キツイなあ、というのも正直なところ(←どこがどうとかは、ネタバレになるので言いません。自分の目で読み比べて、確かめて下さい)。 いやまあ、クライシス・シチュエーションの王道を追う限り、作中人物の対応や動向がある程度、定型をなぞるのは全く仕方がないのだが(多くの人命がかかった事態である以上、いつだって誰だって、どうしたって、何を差し置いても穏当な最適解を探るので)、小型機しか操縦経験のない、大型機の操縦に関してはほとんどシロートの人間が大勢の人間の生命をやむなく預かって……の大設定から始まり、あれやこれや<まんま>すぎる。 (でもって正直、場面の見せ場としては、先のヘイリーとキャッスル組の方があざとい位に、熱く盛り上げてるし。) まあ、航空機マニアが読むと、描写の踏み込み、細部のリアリティの点でボールの本作の方が一日の長があるのかもしれんし、小説的にも本作の終盤のフェララ神父の言動とか味のある叙述も目立つんだけど、大枠では二番煎じの印象は免れない……これは、丁寧にこの作品を綴った作者に酷か? いずれにしろ、この手の航空冒険小説の系譜(広義の巻き込まれクライシスもの)をもっときちんと整理して追っかけていくと、いつ頃まで定石が続き、どの辺の誰のどの作品から、何かもうひと匙……が出て来るのか見えてくるのかも知れない。その辺りは確かに、興味深くはある。 ……いや、単品で読む限り、本作も確かに、いい作品ではあるんだよ。 でも一方で『O-8滑走路』の、<先駆にして、あまりの完成度の高さ>を改めてつくづく再実感してしまった、そんな一冊でもあった。 |