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ミステリの祭典

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カインの末裔
別題『女優邸殺人事件』

作家 マリー・ルイゼ・フィッシャー
出版日不明
平均点6.00点
書評数1人

No.1 6点 人並由真
(2023/05/17 07:27登録)
(ネタバレなし)
 第二次大戦を経た西ドイツのミュンヘン。「わたし」こと若手女流シナリオライターのモンテ・ファン・ミレドンクはその年の大晦日の夜を、ボーイフレンドのひとりで米独のハーフである文化評論家ロバート(ロッビィ)・S・ベネットの誘いで、若手美人女優クレオ・ジンテジウスの屋敷で過ごすことにする。屋敷では年越しパーティが開かれ、モンテの知己の男女も何人か参加していた。が、その参加者の一人が急死。当初は突然の病死と思われたその死は、やがて事件性を帯びて来る。

 西ドイツで、戦後に書かれた短めの長編。
(原書の刊行年は未詳。戦後の作品なのは、劇中でナチス批判の話題などが出て来ることなどから、間違いないようだが)。

 邦訳は当初、シムノンの紹介でも知られる翻訳家・伊東鍈太郎の訳出で『宝石』1956年8月号に一挙掲載。そののち、たぶん同じ訳文? が、1956年に刊行の芸術社の翻訳ミステリ叢書「推理選書」の第7巻に収録された。
 同書はドイツ系のミステリ作品をまとめる趣で、ほかにワルタア・エーベルトの短めの中編『少年殺人犯』とミヒャエル・グラーフ・ゾルチコフの短編『泥棒日記』が併録されている。
 なお現状で同書はAmazonの登録データにない。
 また、本書の表紙周りの著者名は「M・L・フイッシャー」と表記。
(正確と思える作者名のカタカナ表記の典拠は、ネットでのミステリ研究サイトの情報に拠った。)

 大晦日に芸能人、文化人の間で起きた殺人事件に、高価な宝石の遺贈の件や雑駁な人間関係などがからみ、主人公のモンテの視点で事件の謎が追いかけられていく内容。
 関係者全員の動機や機会などの検証を済ませたころに第二の事件が起き、やがて意外な真相が明かされる流れは、弘通に正統派のフーダニットパズラーっぽい。
 サプライズのネタは時たま欧米作品などで目につくものだが、独自の動機のありようと合わせて、そこそこ面白い。
 ただし紙幅の短さに準じてお話を性急に語り過ぎた感もあり、もっと長めの物語にして演出を盛り上げればさらに良い作品になったような気がする。
 解決の説明が真犯人自身の述懐にかなり負うのも、本作の場合、良くも悪くも、であろう。
 
 ちなみにこれも少年時代から、たまによく古書店の棚で見かけて気を惹かれた、しかして内容のよくわからなかった、そんな種類の作品。
 ウチにも大昔からどっかに一冊あるはずだが、しばらく前から見つからなくなっていて、少し前の古書市で見つけてもう一冊200円で買ってきて、今夜読んだ。ああ、こういう話だったのね、である。
 評点は0.5点オマケ。

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