home

ミステリの祭典

login
アイルランドで殺せ

作家 マイケル・ケニアン
出版日不明
平均点4.00点
書評数1人

No.1 4点 人並由真
(2023/05/14 03:40登録)
(ネタバレなし)
 シカゴ在住の大学の数学准教授で、30歳代末のウィリアム(ウィリー)・フォリーは叔母ローダから手紙をもらい、自分が遺産を継承し、祖父の故郷であるアイルランドの城主になったことを知る。驚きつつも、突然入手した不動産の処遇を決めるためアイルランドに向かうフォリーだが、彼は思いもよらぬ事件に巻き込まれていく。

 1965年のアメリカ作品。
 1931年に英国に生まれたジャーナリストで、1960年に渡米した作者による半ば巻き込まれ型のスパイスリラー。巻末の訳者の解説によると、作者の二冊目の長編だが、一作目は習作ということで未刊行で、本書が処女出版の著書らしい。

 現状のAmazonに書誌データがないが、翻訳は1970年4月20日に角川文庫から刊行。訳者はこの少し後にフォーサイス作品の翻訳を担当して大ブレイクする篠原慎(まこと)。
  
 大昔にミステリっぽい作品だと思って、古書店で購入(最終ページに120円の鉛筆書きがあった)。ウン十年目にして家の中から発掘したので、初めて読んだ。

 なにしろこの時期の角川文庫の新訳ミステリ、新訳の海外小説は、知る人ぞ知る通りに、ジャケットカバーの表紙周りに、作品のあらすじも解説もまったく書いてないものも多く、本書もその中のひとつ。
 今の眼で見ると、まったく何やってんだという感じだったが、いずれにしろ、とにもかくにも内容はまるっきりどんな作風のものなのか、わからない。いや「殺せ」というタイトリングの一部から、たぶん広義のミステリだとの類推は可能だが、では、さらにどういうジャンルのスリラーなのかすら、まるっきし未詳なのであった。

 そんなわけで面白そうなのかツマラなそうなのかも不明で、何十年も家の中で眠ってた一冊だが、別の本を捜すついでに先日発掘。
 思いついてネットで検索しても感想の類などほとんど無いが、あの数藤康雄さんらしいヒト? の私設ミステリ感想サイトで、ひとつだけ「知られざる秀作」という主旨の賞賛コメントがあった。それで、ほほう? と思って読んでみる。

 ただまあ、個人的には……う~ん……。

 たしかに、デブで近眼の中年手前の主人公フォリーが思わぬ幸運に巻き込まれ、30代後半の恋人ジョイとの軽い軋轢を経てアイルランドに向かう序盤は、それなりに快調。が、現地についてからはいまひとつ。
 ある種のマクガフィンをからめての筋立てが展開されるが、主人公フォリーとその小道具との関係性というか距離感がイマイチ不明、当然ながら(読み手のこちら視点での)緊張感もなく、どうにも盛り上がらない。
 いや、陰謀が進行し、悪人が暗躍し、主人公が危機になる流れは理解できるんだけどね、しかしそれが面白い、ハイテンションかというと全くの別物。

 仕事がらみのこっちの事情で二日にわけて読んだのも悪かったのかもしれないが、少なくとも登場人物メモはいつものようにしっかり取りながら読んでいたので、読むのを中断したといっても、情報としての見落としなどはなかったハズ。
 それが結局、後半はひたすら眠かったというのは、結局はその程度の作品か、あるいはよほどこちらとの相性が悪かったのだろう? 
 もしかすると数藤さんと自分とでは、別のものを読んだのかもしれんな。

 後半、登場する(中略)だけはちょっと魅力的。このキャラがいなければ、さらにテンションは下がっていたと思う。

1レコード表示中です 書評