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ミステリの祭典

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死者だけが血を流す

作家 生島治郎
出版日1975年05月
平均点7.00点
書評数1人

No.1 7点 人並由真
(2023/05/07 08:39登録)
(ネタバレなし)
 昭和30年代の北陸。外地からの引き揚げ者で、左翼活動を経た学士・牧良一は、不況のなかで成り行きから暴力団「常盤組」に参加。25歳の現在は、若頭のインテリヤクザとして活躍していた。だが組が懐柔を図り、縁故を結ぼうとした相手は、牧の不仲な実の伯父で、地元の市議会議員でもある牧喜一郎だった。互いに憎み合う伯父、そして常盤組に背を向けた牧は組を抜け、喜一郎の政敵である市議会議員、進藤羚之助に接触。そのまま新藤に気に入られて、彼の秘書となった。それから6年、進藤の若妻・由美とともに、密な側近として新藤を支え続けてきた牧だが、国政への参加の道を歩む進藤の前に障害が続発。それはやがて参事と化し、牧までも容赦なく巻き込んでいく。

 処女長編『傷痕の街』に続く、生島治郎の第二長編。元版は1965年刊行。
 初の三人称での叙述(筋運びは主人公・牧の、ほぼ一視点で展開)、地方都市での選挙戦という特異なものが主題と、生島作品の系譜のなかではいささか格別なポジションだが、それなりにファンの評価が高い作品なのは評者も窺い知っていた(先日、他界した北上次郎などは、後年まで、最も好きな長編に、本作をあげている)。
 
 評者の場合は、大昔の少年時代に古書店で入手した日本版EQMMのバックナンバー誌面で、元編集長の生島が本作についてのメイキングエッセイめいたものを寄せていたのを覚えている(そのエッセイの内容は、タイトリングに苦労して考えたという主旨のこと以外、ほとんど何も覚えていないが)。
 いずれにしろ、前から関心のある作品ではあったが、こないだ出た創元文庫の新版ではどーも読む気になれず(なんだろね)、市内のブックオフの100円棚で数か月前にようやく見つけた徳間文庫版で、今回初めて読了。

 選挙戦という主題に関しては、当時のポケミス400~500番台あたりで結構、海外ミステリなら幅広いテーマやドラマジャンルのものが出てきていたので、そういう風潮を参考にしながら、自らが手掛ける国産ハードボイルドミステリの中に、一風変わった趣向のものを求めた感じである。

 さすがに作中の叙述や筋の組み立てに時代性は感じるものの、そういう意味での送り手の挑戦心には、21世紀の今の眼でも新鮮な思いを見やる。

 一人称叙述をふくめて、和風生島流チャンドラーだった前作『傷痕の街』に比して、文体も筋立ても微妙に一皮むけた感があり、小説としての充足感はそれなりに高い(ただし、厳密な意味でのハードボイルドらしくない、内面描写に引きずられている嫌いはまだある。まあそこが結局は、初期生島らしい良い味になるのだが)。
 
 ミステリとしての骨子について、ここではあまり言わないが、終盤で明かされる意外な真実というか、動機の謎については軽く感心。
 ただまぁ、それでホメて株が上がるような作品では決してなく、初期生島ティストのコンデンスをしっかり味合わせてくれるために読むような一冊。

 好きになる人と、そんなでもない人、評価がけっこう分かれそう……な気配もある。

 評者は……いい作品だけど、だけど……のあとにイロイロ続き、でもやっぱり最終的にはスキ、となるではあろう。そんな一編。

 評点は0.25くらいオマケじゃ。

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