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ミステリの祭典

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日本国有鉄道最後の事件
大須賀敏明が執筆協力/愛知県警・高杉警部

作家 種村直樹
出版日1987年02月
平均点6.00点
書評数1人

No.1 6点 人並由真
(2023/05/06 20:27登録)
(ネタバレなし)
 国鉄の分割民営化を控えた1980年代の半ば。東京駅を出た「ひかり41号」には、改組後の新会社の検討会議に出席する三人の要人(議員、財界の大物、経済学者)が乗車していた。だが彼らが下車するはずの名古屋駅では、三人の姿はない!? 名古屋駅の田村駅長ほか幹部は、愛知県警に捜索願いを提出。切れ者と噂の四課の高杉警部ほか、捜査陣が事件に乗り出すが、事態はさらなる広がりを見せていく。

 元「毎日新聞」記者で、退社後は「レイルウェイ・ライター」として鉄道関連の場で大活躍した文筆家・種村直樹(1936~2014)による、初の長編ミステリ小説。元版は、トクマノベルズから1987年に刊行。
 実作は、作者の友人・大須賀敏明との共同制作(構想~執筆?)らしい。なお探偵役の捜査官・高杉は、その後、所属部署を推移させながら、シリーズキャラクターになるようである。

 評者は外出後、帰途途中のブックオフの100円文庫棚で、このぶっとんだタイトルを見かけて気になって手に取る(1991年の徳間文庫版)。すると、移動中の新幹線内から人がいなくなる人間消失ものらしい? ちょっと面白そうだと思い、購入。4日に買って、5日の夜すぐ読んだ。

 冒頭では、要人消失のメインプロットには直接絡まない? 別の場面、別の登場人物たちによるいわくありげなプロローグが用意され、それを経たのち、本筋に突入。登場人物はそれなりに多く、ネームドキャラも過剰だが、ひとりひとりの人物描写は本当にあっさりしているので実に読みやすい。この辺は同じくジャーナリスト出身のフォーサイスとか佐野洋とかとよく似てる。

 内容の方は実のところ、移動する閉鎖空間を舞台にした不可能犯罪ものというより、国鉄民営化にからむ利権問題、長年にわたって文明・社会の公器としての国鉄を守ってきた職員たちの主張に耳を傾ける社会派ドラマ作品の要素が強くなるが、まあギリギリのところでミステリとしての形質は担保はしている。作者は、ミスディレクションっぽいテクニックも使っているし。
 30年前の国鉄民営化(JR誕生の前夜)についてお勉強になる本。へーそういうものなの、なるほど初めて知った、的な興味での情報小説でもあり、前述のようにミステリとしてはボチボチだが、まあ悪くはない。最終的な事態のまとめ方も、ちょっと愉快……かな。
 後半の中小のヒネリとかも勘案して、評点はこれくらいで。

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