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ミステリの祭典

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悪魔の部屋
「悪魔」シリーズ

作家 笹沢左保
出版日1981年01月
平均点5.00点
書評数1人

No.1 5点 人並由真
(2023/04/20 17:01登録)
(ネタバレなし)
 23歳で処女の美女・松原世志子は、巨大財閥「シルバー興業」の代表取締役会長・伏島京太郎の一人息子で同社の課長職、29歳の裕之と恋愛結婚の末に結ばれた。新妻としての幸福に包まれていた世志子だが、彼女は夫の部下と称する青年、中戸川不時(なかとがわ ふじ)によって誘拐され、高級ホテルの密室に拘禁される。世志子を待つのは……。

 作者の官能サスペンスもの?「悪魔シリーズ」の第一弾。
 大昔に新刊書店で元版のカッパ・ノベルス版を手に取って、ドキドキしていたような記憶もうっすらあるが、結局、買った覚えも読んだ覚えもない。
 今回は、先日の出先のブックオフの100円コーナーで見かけた光文社文庫を、懐かしい(笑)タイトルだと思って購入。

 文庫版で350頁ほどの物語が、全編ほぼホテルの室内のみで進行。登場人物も主人公の男女コンビをふくめてぎりぎりまで絞られ、なるほどその辺は解説で権田萬次が語るとおり、ちょっとフランスミステリっぽいかもしれない。

 そっちの方向に本気になった笹沢作品なのでエロ描写は濃厚だが、おっさんが読んでドキドキワクワクするようないやらしさは希薄で、むしろあの手この手で官能描写を重ねる作者の手際に感心するばかりであった。エロとか官能とかいうより性愛小説に近いかも。
(あ、たぶん一番近いのは『サルまん』レディスコミック編の、作中サンプル・コミックだ。)

 ちなみに最もイヤラシイ、羞ずかしい、と思ったのは、ヒロインの世志子が自分に凌辱行為を重ねる中戸川に向けて、殺してやる! と刃物を突き立てたところ、中戸川の方がそれを黙って受け、流血の傷を見てなぜか罪悪感を抱いた世志子が、彼の手当てをする場面。ここが文句なしに一番いやらしい。顔が真っ赤になる。

 ミステリとしてはさしたるサプライズもなく、最後の決着も共感できる反面、今風にいうなら「めんどくさい」ものの考え方。
 そういう不器用さを最終的に作品の背骨にする笹沢の官能純愛ロマンが炸裂、という印象であった。

 ちなみにAmazonのレビューで初期の笹沢作品(『霧に溶ける』とか)みたいなのを期待して読んだら、こんなのだったのでガッカリした、星ひとつという評があって笑った。いや、そりゃ、あーた……。

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