左の眼の悪霊 |
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作家 | 和田慎二 |
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出版日 | 不明 |
平均点 | 6.00点 |
書評数 | 1人 |
No.1 | 6点 | おっさん | |
(2023/04/16 12:11登録) ガストン・ルルーの『黒衣婦人の香り』のレヴューのなかで、余談ながら、和田慎二の『スケバン刑事』のタイトルをあげたら――その連載(と、美内すずえの『ガラスの仮面』もね)読みたさに、月二回刊の少女マンガ誌『花とゆめ』を買っていた中高生時代の想い出がプレイバックしてきました。ミステリ・キッズであると同時に、少女マンガ・キッズでもあったんだよなあ、あの頃の自分。 といっても、70年代の和田慎二の、『別冊マーガレット』時代から『花とゆめ』時代にかけての、ハッタリをきかせた、ストーリー・テリング全開のサスペンスものの数々(を少女読者相手にやってたんだよなあ)は、もし、きっかけさえあって手にとったらば、誰であれ性別関係なく、お話の面白さに引き込まれてしまったはずです(まあ、筆者が衝撃を受けた初・和田慎二は、小学生時分にクラスの女子から借りた、講談社コミックスmimi『緑色の砂時計』の、サスペンスものではない表題作だったりするんですがw) で。 そんな作者の代表作である『スケバン刑事』を、ミステリ・マンガという観点から、まるっと登録することも考えたのですが…… なにしろ1976年から1982年にかけて――エピソード単位の学園探偵ものが基本テイストだった第1部(ホントはここで一度、完結)から、ブランクをはさんで、やがてスケールの大きな大河ドラマ的ストーリーへ発展していく第2部まで、元版コミックスにして全22巻におよぶ大作だけに、簡単なレヴューで概観し採点するのは、乱暴すぎます。だからといって、たとえば「毒蛇逆襲編」みたいに、特定のエピソードをピックアップして副題を登録するのというのも、問題でしょうし…… 悩んだすえ、自分のなかでの妥協案として、同名ヒロインの麻宮サキが登場し、『スケバン刑事』のプロトタイプとなった読み切り短編「校舎は燃えているか!?」(『花とゆめ』1975年15号)を取り上げることにし、同作を最初に収録した書籍である、花とゆめコミックス『左の眼の悪霊』(1975)を登録することにしたわけです(のちに『スケバン刑事』の、当初の完結巻となった第8巻にも、作者の希望により再録されましたけどね)。 収録内容は以下の通り―― ①「左の眼の悪霊」(1975年 『花とゆめ』13号、14号) ②「校舎は燃えているか!?」(1975年 『花とゆめ』15号) ③「パパにくびったけ!」(1975年 『花とゆめ』17号) ④「リョーシャとミオ」(雑誌未掲載) このうち③は、作者のデビュー作「パパ!」に連なるホームドラマ、④はデビュー前に作者が個人誌として発行したメルヘン・チックな掌編の再録、ということで、さながら和田慎二バラエティともいうべき盛り合わせになっているわけですが、本サイト的にはどちらも対象外。 表題にもなっている①は、掲載誌の月二回刊を記念してスタートした企画〈怪奇とロマン ゴシック・シリーズ〉に寄せられた、前後編各50ページにも及ぶ力作です。広大な領地を有する謎めいた旧家の、相続人候補として招かれた受動的な少女が、そこで怪異に出会うことになり――という、本場イギリスのゴシック・ロマンの伝統を踏まえながら、じつはメイン・ヒロインの役割は、彼女と同伴して館を訪れた親友(不幸な境遇の二人は、鑑別所で出会った)のほうに振られており、そんな能動的な少女の活躍は、サポート役として登場する和田慎二ワールドの住人・神恭一郎の存在もあって、来るべき『スケバン刑事』の露払いをするかのようです。 が、そのせいで――前半、秘密の “城” (日本史から抹殺された異人の城!)まで持ち出してムードたっぷりにゴシックの風呂敷を広げながら、後半、それを畳む段になると、「さあ反撃にうつるぞ」という神恭一郎のセリフに象徴されるように、怪異を物理で撃退する怒涛のアクション編になってしまうんですがね。四百年以上にもわたり、何千人もの人間が犠牲になってきたという、壮大なハッタリがカラ回っているのは残念。しかし、この想像力と腕力は、瞠目に値します(うん、やはりこの人と美内すずえのストーリー・テリングは、当時、新しい才能の台頭で変革の時代を迎えていた少女マンガ界にあっても、別格)。 さて、そんな、飛距離充分の大ファールのあとにくるのが(間を開けず、同じ雑誌の次の号に掲載されたというのが凄い)、文句なしのホームラン、潜入捜査ものの②「校舎は燃えているか!?」です。 手錠をはずされ、暗器のヨーヨーを貸与され、母校に戻ってきた不良少女(はい、スケバンですww)麻宮サキ。いま学園は、旧校舎でおきた爆弾騒動、そして新たな爆破が続くという噂で不穏な空気のなかにあった。サキは馴染みの用務員に接触し、宿直室で寝泊まりしながら、爆弾事件の調査を開始する。彼女は、ある条件のもと、仮釈放された「学生刑事」だった―― ひさしぶりに読み返してみて、想い出補正無しに、やっぱりこりゃあ面白いわ、と思うと同時に、これ、たった34ページだったのかよ‼ と驚かされました。 主人公のキャラクターを立てながら伏線を張り、中盤の回想で「学生刑事」という(大法螺の)システムが必要とされる、もっともらしさを担保したうえで、絡み合った事件をほぐしていき、ハウダニット(新校舎を爆破する方法)の気づきから、一気にタイムリミット・サスペンスへ。クライマックスでは、小道具のヨーヨーが印象的に使われ、最後の1ページで、サキが学生刑事を引き受けた理由が明かされ余韻を残す。 コマを小さく割り、省略をきかせることで、この枚数でこれだけのストーリーを語れるんだなあ。 細かいツッコミどころとか、もう、どうでもいい。 特記すべきは、本作が長編『スケバン刑事』のパイロット版であるにもかかわらず、単体の短編として綺麗にまとまり、終わっていることです。そして、言ってしまえば――エッセンスは全部これに入っている。 で、ですね。 本サイトが「コミックの祭典」だったら、この、花とゆめコミックス版『左の眼の悪霊』は、和田慎二へのステップ・ワンとして絶対オススメ、ということで、8点付けていたところですが……自粛しました。 でも、埋もれた学園ミステリの逸品を含む、バラエティに富んだ作品集として、それでも6点は、あげておきたいと。 だってねえ、「炎眼のサイクロプス」(原作 石川理武、作画 宇佐崎しろ)を掲載した『週刊少年ジャンプ』2021年3・4合併号に、レヴューで5点を付けた、おっさんとしては、それより上じゃないとマズイわけですよwww |