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ミステリの祭典

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世界の終わりのためのミステリ

作家 逸木裕
出版日2023年06月
平均点6.00点
書評数1人

No.1 6点 人並由真
(2023/10/05 17:42登録)
(ネタバレなし)
 時は少し先かあるいは――の未来。人間の精神(記憶、思考パターン、意識、感情)を半永久的に持続可能なボディ「カティス」に複写可能な技術が確立した世界。なぜか地上から人間の姿はいっさい消え、死体すら残っていなかった。カティスとして長い眠りから目覚めた「私」ことミチは、本来あるはずのオリジナルの人間の記憶もないまま、さる目的のために各地を放浪する。そんなミチはある日、ひとりの人影を認める。

 地上全域? から人類がいなくなった(なぜ?)の世界を舞台にしたロードムービー調のストーリーで、全4話の中編から構成される連作SFミステリ。

 作者あとがきによると、こういう人類&文明が滅んだ&衰退した世界でのロードムービー風のジャンル(漫画&アニメの『少女週末旅行』みたいな)は、ブライアン・オールディスの命名により「コージー・カタストロフィ(心地よい破滅)もの」というそうで、なるほどひとつ勉強になった。

 なぜ人類は滅んだか? の壮大な謎を連作通しての遠景に置きながら、ミチとその相棒(表紙にいる美少年風の見た目)が出会う事態の謎をひとつひとつ解き明かしていく形質の、SFミステリ中編シリーズ。
 枯れた世界観、『エイトマン』の「スーパーロボット」辺りを想起させる「カティス」の文芸(技術的な面では細部に少し差異があるが)ほか、SF的な大設定はどれもきわめて王道だが、こういう作品らしい退廃感とそれにともなう詩情はフツーに実感でき、居心地は悪くない。
 なんか大好きな田中光二の『異星の人』に通じる雰囲気もある。
 
 エピソード数は少ないが、謎の方はハウダニット、ホワイダニット、さらには……とそれなりにバラエティ感のあるものが順々に語られ、トータルで見ればSFミステリとして佳作の上というところ。良くも悪くもけっこう手堅い。

 続刊はありそう……というより、作者自身が本編からもあとがきからも書きたがっている気配が満々で、受け手的には、ならばどうぞ、また新刊が出たらつき合わせていただきます、という感じ。
 作者のけっこうな作風の幅の広さをまた改めて、認める一冊でもあった。
 評点は7点に近いこの点数で。

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