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ミステリの祭典

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止まりだしたら走らない

作家 品田遊
出版日2015年07月
平均点7.00点
書評数1人

No.1 7点 メルカトル
(2023/04/07 23:00登録)
都心から武蔵野の台地を横切り東京を横断する中央線車内を舞台に、
さまざまなヒトたちの個人的な問題をあぶり出す連作短編集。
現代人の共感を呼ぶ、あの人の、私の、誰かの、車内事情。
Amazon内容紹介より。

乾くるみの『イニシエーションラブ』が青春ミステリで登録されているなら、これも同じジャンルで問題ないだろうと考え登録しました。どうせ今後誰も読まないだろうし、少々のことなら見逃されると思うし。
さて本作は中央線車内にて描かれる本筋の間に、同じく電車内や駅のホームを舞台にした短編が挟まれるという、巧妙な構成になっています。短編の方はかなり突っ込んだぶっ飛びな内容のものもあれば、小学生の遠足で動物園に行った時の感想文の幾つかをそのまま載せた他愛のないものや、列車の飛び込み、つまり人身事故、露出狂の機縁など様々な人間模様を描き出しています。

そして肝心の本編で語られるのは、主に東京駅から高尾までの中央線内で交わされる大学生の先輩と後輩の交流。短編も良いけれどこちらの方がやはり長編としてきちんと纏まっていて好感が持てます。特に新渡戸先輩の風変わりな性格や考え方が面白く、かなり楽しませてもらいました。例えば電車内で飲食を許されるのはどこまでなのかという問題。ミンティアはOK、飲料水は人による、おにぎりはどうなのか?ところてんは勿論駄目だが、先輩にはそのボーダーラインが分からないらしい、という妙な感覚の持ち主だったりしてね。
ここで問題になるのは、この作品のどこがミステリなのか、でしょう。それは秘密ですよ、勿論。長編と短編を交互に並べる事によって、ある仕掛けを煙に巻く効果があるのではないのかと、いらぬ邪推をしてしまいました。そこまで計算していたのなら大した作者だと言わざるを得ません。本筋だけ最初から読み返したくなります。

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