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ミステリの祭典

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バルカンの火薬庫
贋作アルセーヌ・ルパン ボアロー&ナルスジャック作品

作家 アルセーヌ・ルパン
出版日1975年01月
平均点5.00点
書評数1人

No.1 5点 クリスティ再読
(2023/04/06 12:39登録)
ボア&ナルの贋作ルパン2作目。前作「ウネルヴィル城館の秘密」のラストで、第一次大戦が勃発することになるのだが、本作はそれを2年ほどさかのぼる話..だけど、第一次大戦の背景となったバルカン情勢に取材した話になっている。
でも幕開けからシャトレ座でのバレエ・リュスの伝説的な舞台をルパン(セルニーヌ公爵)が見物している!ニジンスキーとカルサヴィナの「薔薇の精」である。すごいな~羨ましいというかなんというか(小説の人物を羨ましがっちゃいけないが)。
この帰りがけにルパンが遭遇した乙女のピンチ。見逃したらルパンじゃない....これをきっかけに、不思議な強盗事件・精神病院に囚われたその妹と誘拐事件などなどの怪事件がこの乙女の周囲で起き、それをルパンが助けようと奮闘する話。だから、ルパンというよりも分身のセルニーヌ公爵の冒険譚。
しかし、その背景にはセルビアの大公の秘密の恋が絡み、最後はこの乙女の城館でのラブロマンスと、対立するハンガリーの刺客との闘争、といった展開。

まあだから「ウネルヴィル」と違って、ルブラン作品のパスティーシュの色は薄く、ルパンを主人公としたロマンス色の強いオリジナルの活劇になっている。それでもルパン、最後にはしっかり推理して殺人犯人を暴くミステリ要素がしっかり組み込まれているんだが、ボア&ナルの狙いはなんとなく、わかる。
王室のラブレター争奪戦というロマン色というのは、やはり「ボヘミアの醜聞」を連想するが、「醜聞」自体は1889年のマイヤーリンク情死事件(「うたかたの恋」)からヒントを得たものでもあろう。あるいはセルビア大公の「ミカエル」という名前から、あるいは架空の小国シリリアからたとえば「ゼンダ城の虜」を連想したりもする。そういった「ルリタニアン・ロマンス」の味わいを贋作ルパンとして構築してみせた、といったあたり。

それでも展開はやや地味かなあ。登場人物はこの姉妹が中心でかなり少ない。まあ、警官あがりでルパンと行動を共にする私立探偵モングージョがなかなかナイスなキャラ。

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