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ミステリの祭典

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タンゴ・ノヴェンバー

作家 ジョン・ハウレット
出版日1977年11月
平均点6.00点
書評数1人

No.1 6点 人並由真
(2023/04/04 10:38登録)
(ネタバレなし)
 1975年9月。英国のグレイハウンド航空の旅客機で、中型ジェット・ライナー(登録記号G-FETN)が、イタリアのタオルミーナ・ペロリターナ空港で着陸時に墜落した。百数十人の乗員乗客は、奇蹟的に助かったわずかな者以外、ほぼ全員死亡という大参事となる。英国通産省の要員ほか複数の国の調査員が原因を調べ、マスコミも独自の調査を進めるが、現場の周辺には怪しげな暗躍の動きがあった。

 1976年の英国作品。英伊ハーフである、作者ハウレットの長編二冊目。

 昔からタイトルの響きだけで何となく印象に残り、気を惹かれる作品というのは結構あるものだが、これはそんな一冊。翻訳の刊行直後あたりから何気に気になっていた本書が近所の図書館の蔵書にあるのに気づき、本当にふと思いついて借りて読んでみた。

 くだんの「十一月のタンゴ(タンゴの11月)」の題名の意味は、墜落した機体登録記号の末尾の二文字「TN」を、現地の空港の管制官がフォネティック・コードで読んだものに由来。フォネティック・コードとは、たとえばもしあなたが家電メーカーの窓口問い合わせなどに電話連絡して、「田中」と名乗った場合、先方の担当が聞き間違えのないように「田んぼの田、真ん中の中の田中さまですね?」と確認してくる、あの呼び方というか話法のことらしい(航空管制の場合は、それぞれのアルファベットに応じて、一定の単語が公式に設定されているらしいが)。勉強になった。
 というわけで作中の地の文でも墜落機は随時、このフォネティック・コード「タンゴ・ノヴェンバー」の呼称で叙述されている。

 ミステリとしては墜落に至るまでの乗員周辺の家庭~参事寸前の機内の様子が場面場面を切り取るようにプロローグで語られ、その後、大参事後の地上側の面々の群像劇が大筋となる。
 墜落の本当の原因は、作中人物にも読者にも終盤まで不明で、その一方で続々と事件が起きて事件の情報を語る作業の外堀が少しずつ埋まっていく流れだが、これがなかなか緊張感があって面白かった。
 当時はやったニューエンターテインメント的な雰囲気もあるが、広義の航空サスペンス・スリラーとして結構読ませる。
(70~80年代作品らしい、ネットやそのほかの近代科学文化に関係ない、人間が足で情報を探し回る雰囲気も、それはそれで味があった。)

 操縦士のミス、あるいは、ハイジャック犯罪が機内で生じてそれが墜落の原因となった仮説まであれこれ取りざたされるが、読者は神の視点で、墜落の原因の真相が見えないまま、地上の各地で進む謀略を少しずつ小出しに読まされ、いろいろと想像を喚起される。この辺りの作者(作品)との駆け引きが、本書を楽しむミソだ。

 ただし最後にはっきりする真相(少しずつ見えてくるが)に関しては、いささか航空分野に詳しいその筋の読み手を前提にした趣もあり、一見のこちらとしては、はあ、そういうものなのですか? という部分がなきにしもあらず。悪く言えば間口の広い(評者のようなスーダラでわがままな読者までを対象にした)エンターテインメントとしては、ちょっと終盤の演出が弱いような印象もあった。わかりやすく明快なら万事よいわけだとも思わないが、本作の場合、その辺で少し減点。
 ただし、中盤~後半にかけてもイベントを出し惜しみしない筋の組み立てなど、けっこう楽しめる。優秀作には至らなかったが、十分に佳作の上にはなっているとは思う。航空ネタの事件ものが好きな方なら、ちょっと覗いてみる価値はあるかとも思う。

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