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ミステリの祭典

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天国の魚(パラダイス・フィッシュ)
漫画

作家 高山和雅
出版日2014年09月
平均点8.00点
書評数1人

No.1 8点 クリスティ再読
(2023/10/11 15:16登録)
先に「奇相天覚」を小手調べしたけど、本命は本作。ガチガチのハードSFの骨格があるにもかかわらず、世界の片隅で肩を寄せ合う家族の情愛の話だったりする。だから結構泣けるし、無常観にも落ち込む「エモいハードSF」。

2030年、南の島を大津波が襲う。この島の療養施設に全身不随の「とうさん」を抱える5人の家族は、避難船に乗らずにあえてこの島に留まる決意をする。この島にあるシェルターに避難するが...ふと気がつくと一家は1970年の東京にいた。あたかもそのままずっと東京で暮らしていたかのような生活だが、「とうさん」は出張先で急死したことになる。しだいに1970年の東京の生活になじむ一家だが、1982年に「かあさん」が働く学校の生徒が実は幼い日の「とうさん」であることに「かあさん」は気づく。そして「かあさん」は事故の巻き添えを食って死ぬが、その際に救い出した赤子を一家は引き取ることになる....この子は亡くなった「かあさん」と同じキョーコの名を与えられ成長し、「とうさん」の生まれ変わりのカオルと恋をするようになる。
しかし、突然、この一家に「あなたの存在理由を教えます」とロボットが夢の中で語りかけてくる。宇宙船がブラックホールを回避する方法を決断するように、一家は招集されたのだった!

いやこの転調の超烈さ!「すこし不思議」なSFからいきなりハードSFに放り込まれるこのギャップ。実はこの一家の不思議なタイムワープには「社会から生まれる(ほんとうの)人間の意志」を求める計画があった...対立する「家族」は「合意」をまとめることができるか?それとも「家族」は幻想に過ぎないのか?

この家族は実のところ一種の疑似家族で、血縁がはっきりしない面がある。しかし家族としての一体感はしっかりとあるが、それでも「とうさん」になったカオルは自己のアイデンティティの揺らぎから、家族の絆を信じ切れない部分、「反出生」めいた懐疑に捉われがちだったりする。

この世に生れた人は一人残らず自分を生んだ本当の親から受け取った一通の手紙を持っている。それは幸福の手紙だ(略)「この手紙と同じものをあなたの子供に渡したとき、あなたは幸福になれます」

この幸福の約束を信じるか、それとも?
疑似家族にもこの「幸福の手紙」は届いているのか?

ハードSFの部分が完全にネタバレになるので、説明しない方がいいんだけども、しっかりこんな重たくエモい問いがハードSFの構造にパーツとして組み込まれている。一回読んだだけだと構造を把握しきれないくらいに精緻に構築された、とんでもないくらいの力作SF。いやはや「SFとしての徹底度」で小説に勝っているマンガも、今や例外じゃないんだろうなあ。

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