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ミステリの祭典

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自殺志願者
ニューヨークCIA調査員 リチャード(リック)・サヴィル/『ミッドウエイ水爆実験』に併録

作家 ミシェル・ルブラン
出版日1973年11月
平均点6.00点
書評数1人

No.1 6点 人並由真
(2023/05/22 19:25登録)
(ネタバレなし)
 ペンタゴンで半年前から、経路不明の機密漏洩事件が続発。その中でフィラデルフィア出身の「フィリップ」なる男が消息を絶った。CIAのニューヨーク支局に呼ばれた諜報員リチャード(リック)・サヴィルは、上司のミスター・スミスから、同僚で前線復帰した「ハードボイルド」こと大物諜報員ウィリアム(ウィル)・ストーンがこの件に関わっていたことを知る。ストーンの後を引き継ぐ形のサヴィルだが、CIA側はさらにサヴィルの知らない陰でバックアップ要員を動かしていた。

 1957年のフランス作品。
 リチャード・サヴィルを主人公に据えたシリーズものの第3長編で、日本ではシリーズ第2長編『ミッドウェイ水爆事件』とカップリングで刊行。『ミッドウェイ~』の方が表題作になっている。

 サヴィルが疑惑のあるペンタゴン関係者の周辺を嗅ぎまわる一方、東側スパイたちの暗躍も並行して、三人称多視点で叙述。そもそも物語は、サヴィルの前任者ストーンにからんで幕を開ける。

 CIAには各支局ごとにいささか複雑な連携体制があるらしく(少なくとも本作の世界観では)、サヴィルのボスでニューヨーク支局のトップのスミスが、サヴィルの知らないところでワシントン支局と結託。ワシントンから送られてきた諜報員のチャールズ・コルビィなる御仁が実質的なもうひとりの主人公格となり、考えあって(というより上の意向で)サヴィル当人には気づかれないように陰からサヴィルをバックアップ。
 二人の主人公の動向が並行して語られながら物語が進んでいく、いささかヘンな作りの作品。まあ、諜報工作組織が、不測の事態を勘案して二重三重に要員を用意しておくというのは、プロスパイとしてのリアリズムではあるのだが。
 それはそれとして、肝心の情報漏洩に関しては、一応以上のサプライズを用意していたりするから、小癪といえばコシャクな作品だ。

 未訳のシリーズ第四作では、今回、作中で固まった人間関係や文芸設定とかをもとに、さらに描写の進展があった可能性などもある?

 創元文庫の巻末には、作者ルブランへの書簡インタビュー集が掲載されていて、これがなかなか面白い。
 日本のミステリファンの認識からすると、ルブランの作品のなかでは変化球っぽい? スパイものの最後にこういう企画記事がついているということでそのインタビュー記事そのものの存在も知らない人もいるかもしれないが、機会があったらちょっと覗いてみてほしい。妙にクセのあるウィットの効いた物言いが、笑わせる。 

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