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ミステリの祭典

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復活なきパレード
脱サラ私立探偵・柏木大介/改題『弔いの街』

作家 三浦浩
出版日1987年08月
平均点6.00点
書評数1人

No.1 6点 人並由真
(2023/03/24 13:23登録)
(ネタバレなし)
 1987年4月のこと。「おれ」こと柏木大介は、中野近くに自宅を兼ねた事務所を開設したばかりの35歳の私立探偵。少し前までは大企業の社員だったが、訳あって退職。妻とも離婚した。最初の依頼人は17歳の女子高校生の美少女令嬢、麻生知佐子だ。専業主婦の姉で25歳の立花紀和子がしばらく前から行方不明で、その夫で商社マンの卓也とも連絡がとれないので安否を確かめてほしいという。柏木は依頼を受けて調査に乗り出すが、何者かに襲われて昏睡。不穏な影は知佐子の周辺にも察せられる。柏木は、知佐子の護衛も兼ねて調査を続行するが、予想以上に事件の根は深かった。

 改題された文庫版『弔いの街』の方で読了。脱サラ探偵・柏木大介シリーズの第一弾。

 昭和ミステリ、国産ハードボイルドの体系に関心を持ったファンが系譜を探れば、割と早く三浦浩の名前には突き当たるはず? で、評者も何十年も前からその高評? は意識していた。
 が、どうせならデビュー作で、当時相応の反響を呼んだときく『薔薇の眠り』(69年)から読もうと思いつつ、なかなか同作に縁がなく、ついに現在まで来てしまった。

 聞くところによると作風は、初期の文芸的なA級風のハードボイルドミステリから、後年のやや通俗っぽい軽ハードボイル路線に流れたようで、たぶん、その辺は商業作家として編集者の要請に応えた部分などもあったのかとも勝手に憶測するが、なんとなく作家としての立ち位置が、島内透あたりに似ている。

 で、とにもかくにも、先日、古書市で本作の文庫版を入手。まあそろそろ、特に著作の順番にこだわらずに読んでもいいかなと思い、ページを開いたが、なんというか予想以上に軽妙な作風で、あっという間に読了してしまった。

 とはいえ序盤から思うところも多く、まず、いくら上流家庭のお嬢様とはいえ、主人公の柏木が、失踪した姉の調査料として大枚50万円、躊躇なく、小娘に請求し、それに知佐子の方が即座に払うのに面くらう(……)。
 この金額が柏木の感覚で適正価格だったとしても、JKへの高額な請求を躊躇する主人公の描写も、一瞬でも戸惑う女子の図なども絶対にあるはずで、本気で、これはなにかのギャグかと思ったが、どうやらそうではないらしい(笑)。
(ちなみにこのあと、柏木のもとには別件の尾行依頼があるが、そちらは数日の調査を総額10万円でうけている。まだ高額だが、こちらはそれなりに納得できる数字だ。)
 ちなみに警察に相談したのか? 相手にしてくれなかった、のお約束の段取りなどもなし。これもあった方がいいと思うんだけどね。おじさんがその辺のアドバイスも先にしないで、コドモから50万円もらっていいの?

 文章も目が点になるほど、ページによっては会話だけで、まるでロス・H・スペンサーであった。そりゃサクサク読み進められるよ。

 とはいえ、あれやこれや立体的な面で引っかかる箇所は多い作品なれど、最後まで読み終えると、妙な風雅もあるような気もしないでもない、一風変わった一冊であった。
 触感でいうなら、アメリカの50~60年代軽ハードボイルド私立探偵小説が、どこかオフビートな文芸味を見せて読み手を引き寄せるときの味わい、あれに似ている。

 作者自身にしても商業作品っぽい方向に傾注してゆく過渡期の作品だったかもしれんし、やっぱ『薔薇の眠り』からそのうち、読んでみることにしてみよう。
 
 まあ本作に関しては、単品で読む限り、低い評価をする人はするかもしれないし、それに逆らう気はないんだけれど、どっか妙に心にフックを感じる作品……かもしれない内容というところで。
(終盤に明かされる意外な真相に関しては、80年代の後半~終盤、時代はそんなものだったのかな、と思うところもあった。) 

 最後に。本サイトは旧題で登録が原則(管理人さんの御指示を拝見、解釈するとそういうことになる)だから、旧書名でデータアップしておくが、個人的には改題の方が絶対にいい。というか、旧題の方は、タイトリングの意味がいまいちピンとこない。

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