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ミステリの祭典

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キング・コング
ノベライズの実執筆、デロス・W・ラヴレース

作家 エドガー・ウォーレス&メリアン・C・クーパー
出版日2005年10月
平均点6.00点
書評数1人

No.1 6点 人並由真
(2023/03/07 06:31登録)
(ネタバレなし)
 1930年代前半(おそらく)のニューヨーク。2年前にさる筋から、海図にも載っていない東インド洋の孤島の秘境の存在を知った映画監督カール・デナムは、知り合いの老船長エングルホーンと二十数人の船員とともに、船舶「漂流者(ワンダラー)号」でその島に向かう。デナムは出航直前に、掘り出し物の新人女優の美女アン・ダーロウと契約。持ち前の勘から、彼女を活かしたヒット作を目的の島で製作できると予想していた。だが一行は、そこで信じられないような太古の世界と、そして野獣の王者「コング」に遭遇する。

 1933年のオブライエン版、白黒版の公式ノベライズ。原書は同年に刊行。
 評者は今回、創元文庫版で読了(数か月前に、ブックオフの100円棚で美本を入手)。

 この旧作映画の公式ノベライズの著者名は、映画プロデューサーのクーパーとストーリーの原案を考えたウォーレスの連名で表記されているが、実際に小説を書いたのは、当時の雑誌編集者で作家のデロス・W・ラヴレースなる人物らしい。

 モノクロ版『コング』は(映画製作の過程において昔も今もよくあることだが)、原案→脚本→ストーリーボード(絵コンテ)と、話の細部に異同が生じており、小説版は原案と脚本をベースに書かれたようである。
 実際に読んでみると映画と大筋は一応は同じだが、いわゆる髑髏島での冒険行、コングと恐竜たちとの死闘図がかなり長尺で、一方でニューヨークに来てからの描写はコンパクト。

 まあ評者も、映画そのものは数回観てるとはいえ、21世紀になってからは全編を通してはマトモに視聴していないハズなので、厳密に映画とノベライズの比較はできない。
 ただし創元文庫の巻末で、(旧版からの再録もふくめて)訳者の石上三登志が丁寧に解説しているとおり、映画にはあるがノベライズにはない、またはその逆のシーンもそれなりにある。その辺が読みどころで楽しみどころ。
 たとえばここでは具体的には書かないが、ああ、映画のあのキャラクターには、当初、こういう設定や素性が構想されていたのか? と興味を惹かれるところなどもあった(もちろん、ノベライズ担当の方でまったくのオリジナルで潤色した可能性もなきにしもあらず、だが)。

 なんにしろ一冊読み通すと、たしかにコングという主役怪獣への関心よりも、太古の恐竜が跋扈するロストワールド世界への憧憬の念の方が頭をもたげてくる。

 石上の文学史観においても、ロストワールド恐竜もの文学の先駆はヴェルヌの『地底旅行』であり、ドイルの『失われた世界』だそうだから、やっぱりまずはそっちから読んだ方がいいな。そういう方向への関心、興味を改めて強く押される一冊でもある。

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