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ミステリの祭典

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恋と呪いとセカイを滅ぼす怪獣の話

作家 さがら総
出版日2022年10月
平均点6.00点
書評数1人

No.1 6点 人並由真
(2023/03/05 18:05登録)
(ネタバレなし)
 十数年前に太平洋に落ちた隕石の影響で、各地に特殊な能力を持つ子供たちが出生。やがてそんな子供たちは、房総半島から南に200海里の位置にある火山島、通称「星堕ち島」に設立された学園に集められた。その中のひとりで「俺」こと、人間の感情をコントロールできる17歳の御蔵真久良(みくら まくら)とその学友たちは、ある日、東京から一人の転校生を迎える。

 TVアニメ化もされた人気ラノベ『変態王子と笑わない猫。』の作者、さがら総による、昨年2022年の新刊で青春SF特殊設定ミステリ(?)。
 評者は『変態王子』は原作にもアニメにも今のところ縁がないし、実をいうと本書を読んでから、ああ、この作品の著者って、あのさがら先生だったのね、と意識したくらいである。

 題名に「怪獣」とあり、SF設定みたいなので、ガチな怪獣SFパニックもの+青春ミステリという変化球作品かと期待して読み出したが(はあ)、カイジューというのは、ほとんど作中のある事象というか概念の比喩であった。
 実際の中身は、いわゆるセカイ系のラノベだと思う。

 十人にも満たない登場人物、ほぼ全員がメインキャラのなかで大きな章ごとに話者が交代。全体に大きな(中略)という作りで、その大技は、20世紀の某、マイナーな(たぶん)技巧派長編ミステリを想起させた。
 ただしミステリ的なギミックをかなり大きな比重で活用しながら、作者の主眼は技巧的なミステリを組み立てるというよりは、それすらもパーツにした、やはりセカイ系の青春ラノベを紡ぐことにあるようで。

 もちろんそれはそれで作者の思惑だし、自由な狙いだが、このネタでもっときちんとしたミステリっぽい形にしてほしかった、という受け手のないものねだりの気分も生じる。
 まあ、このネタ自体も、おそらくは以前からどこかにあるもののバリエーションなのであろうが、それなりにインパクトは感じた。
 セカイ系青春小説と、技巧的なミステリ、その双方の側面によい距離感を見出した読者なら高い評価は与えそうで、実際、ネットではそういう主旨の賛辞の評も多いようである。
 評者個人の評点はとりあえずこんなもんだが、読んでおいて良かったとは思う。

 最後に、本作は刊行後、部分的に他作品からの剽窃? が発覚し(詳しいことは不明だが、地の文の一部を流用したらしい)、出版社の方で回収騒ぎになっているらしい。これも読後にネットで感想を眺めているうちに初めて知った。
 作品の大枠、根幹の部分はおそらく、純粋に作者のオリジナルであろうに、つまらない? 瑕疵がついてしまった形で、一見の読者ながら、いささかもったいないと思う。

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