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ミステリの祭典

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血の弔旗

作家 藤田宜永
出版日2015年07月
平均点7.00点
書評数1人

No.1 7点 猫サーカス
(2023/02/11 19:09登録)
日本の戦後とは何かを問う壮大な物語である。貸金で財を成した原島の運転手をしている根津謙治は、裏金11億円の強奪をもくろむ。1996年8月15日、謙治は学童疎開の時に出会ったという希薄な関係性しかない川久保、岩武、宮森と計画を成功させる。唯一の計算外は、屋敷を訪ねて来た女を射殺したことだった。謙治たちは大金で派手に遊ぶのではなく、金を元手に表の世界で成功するため実業界へと進む。そのため自分たちを疑う刑事も、金の奪還を進める原島や裏社会の人間も力で排除することができない。頭脳戦から生まれる静かな息苦しいまでのサスペンスには圧倒される。執拗な追っ手をかわしていた謙治たちが、時効直前に見つかった戦争の遺物により新たな事件に巻き込まれる。この展開は、戦中と戦後が断絶していないことを教えてくれる。何より、手を血で汚した事実を遠くに追いやった成功者になろうとした謙治たちは、他国の戦争によって平和と繁栄を維持した戦後の欺瞞を暴いているように思えてならなかった。

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