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ミステリの祭典

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はなればなれに

作家 ドロレス・ヒッチェンズ
出版日2023年02月
平均点7.00点
書評数1人

No.1 7点 人並由真
(2023/04/07 17:14登録)
(ネタバレなし)
 1950年代のロサンジェルス界隈。表向きは更生中の、前科持ちの22歳の青年スキップは、少し年下のガールフレンド、カレン・ミラーからさる情報を得る。それはカレンの後見人の未亡人モード・ハヴァマンの自宅の周辺に、ある事情から公にできない、大金が秘匿されているらしいというものだった。スキップは友人で同じ年、そしてやはり前科者の若者エディ・パレットを引き込み、カレンにも協力させて金の奪取を図るが。

 1958年のアメリカ作品。
 ゴダール監督の7本目の映画『はなればなれに』の原作で、元はあのトリュフォー監督が読んで感銘してゴダールに推挙、映画化を打診したそうである。
 今回の翻訳刊行は、(評者がこのサイトでも以前に話題にしてるが)もともと一時期のポケミスの好企画「ポケミス名画座」で出る予定だったが、なんらかの事情からお蔵入りになった訳文の復活だと思われるが、正確なところは不明。その辺の事情については、特に巻末の解説の類では触れてない。

 内容は、いかにも往年の犯罪少年、青春クライムストーリーという感じで、チェイスあたりの諸作にちょっとアイリッシュっぽい雰囲気をまぶした印象。つーかいちばん思い出したのは、日本版マンハントとかでおなじみだった不良少年ものの短編作家ハル・エリスンの世界であった。
 登場人物はモブキャラもふくめて30人前後、紙幅も300~400頁と、ともにそれぞれそれなりだが、胃にもたれないボリューム。
 しかし中身の方は、丁寧な人物描写、間断なくジャブを打ち込んでくるような、中小規模のイベントが続く、小気味よい筋運びでけっこう読ませる。
 良い意味で、なるほど、当時の鳴り物入りのこの手の名作が、ようやく長い時を経て発掘された、という感慨。

 悪く言えば、全体的に、この手の青春クライムものとして、あまりにソツがなく、優等生な仕上がりが若干の物足りなさを感じさせないでもな……いや、やっぱり、それはゼータクな物言いだよな(汗・笑)。
 脇役では、まったくの善意というか気まぐれから、スキップにとにもかくにも親切にして、結果、スキップの心の中の悪のスイッチを押してしまう一助となってしまう、石油成金のおじさんサルヴァトーレ氏が、いい味を出していた。

 前述のように、良作ではある一方、インパクトやや薄……? のところもなくもないが、作者は打率は高そうな作家なので、今後も引き続き評判のいい&面白そうな未訳作品は、どんどん発掘紹介してほしい。
(まずはもう一作あるはずの、私立探偵セイダーものの未訳長編をお願いします。)

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