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ミステリの祭典

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お艶殺し
「金色の死」を併録

作家 谷崎潤一郎
出版日1993年06月
平均点6.00点
書評数1人

No.1 6点 クリスティ再読
(2023/01/30 22:05登録)
さて谷崎シリーズも本作あたりで終わりにする。中公文庫の本作、「お艶殺し」と「殺し」がタイトルに入って、しかも乱歩「パノラマ島奇譚」の元ネタの一つの「金色の死」を併録している。本サイトでやらなきゃね。

「お艶」の方は江戸世話物、南北みたいな世界。質屋の若い衆の新助は主人の娘お艶と相思相愛なのだが身分違い。お艶は新助を唆して駆け落ちをするが、二人を匿った船宿の清次には魂胆があった...なりゆきで新助が2件の殺人を犯した後、再会したお艶は芸者として売れっ子になっていた。二人はトコトン堕ちていく...

という話。桜姫東文章みたいな話だが、もちろんお艶は谷崎の大好きな権高い女王様。マジメで小心なクセに新助は次から次へと、お艶のために殺人を犯すことになっていくさまを描いた小説だから、悪女モノというかピカレスクというか、そういう話。

おい親分、その塩梅じゃあとてもいけねえ。いっそあたしが斯うしてやるから一思いにくたばっておしまい

と芸者だから江戸っ子な啖呵がなかなかに、粋でよろしい。

「金色の死」は、「アルンハイムの地所」みたいにスタティックな風景描写だけでもないけども、「パノラマ島」みたいに死人との入れ替わりや探偵の追及があるわけではない。芸術論小説みたいなもので、作者を投影した小説家が大金持ちの友人岡村が作りあげたユートピアを訪れる話。この岡村は「最も美しいのは人間の肉体だ」と「希臘美」を掲げてパノラマ島みたいなユートピアを箱根山中に作りあげる。三島由紀夫もこの「希臘美」に反応しちゃってイカれることになるんだけどもね。
まあ評者もいろいろ考えたことあるんだ。建築・設備デザイン、美的装飾やら流れる音楽やら工夫に工夫を重ねた、生活すべてがアートになる「総合芸術」を作ったところで、そこに生活する人間が「美しく」なければ意味がないじゃないか、ってね。鑑賞する人自身も「美しくあり、美しく動かなければダメ」とか制約が必要になって、初めて「総合芸術」ならばそりゃ不可能事に近い。でも唯美主義を突き詰めると、そうなってしまう...困ったね。

「彼は此の頃の露西亜の舞踊劇に用いられるレオン、バクストの衣装を好んで、或は薔薇の精に扮し、或は半羊神に扮し...」とあるから、バレエ・リュスとニジンスキーが参照されているわけだ。これがこの時代のアヴァンギャルドの頂点であり、それに谷崎も乱歩も追随していたわけである。

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