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ミステリの祭典

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ようこそウェストエンドの悲喜劇へ

作家 パミラ・ブランチ
出版日2022年08月
平均点5.00点
書評数1人

No.1 5点 人並由真
(2023/01/24 09:51登録)
(ネタバレなし)
 1950年代のロンドンはウェスト・エンド。10年以上続いた総合雑誌「ユー」は販売部数がどんどん下落し、いまや廃刊の危機にあった。だがギリギリ現在の部数(実売部数5万部)を支えているのは、副編集長でコラムニスト、社内では「マダム」の綽名の中年夫人イーニッド・マーリーが担当する、人生相談コーナーの一定した人気だった。しかしそんなマーリーは3人目の夫に若い愛人が出来て自分を捨てたイライラ、さらに服用薬の効果から、狂言自殺めいたことをして、周りの注目を集めてやろう程度の軽い気持ちで、投身自殺の真似事をしかける。はたして彼女は実際に、弾みで? 会社の窓から転落。九死に一生を得たマーリーだが、背後に誰かの気配があったことから、ふたたび強い承認欲求が頭をもたげ、自分はどうも何者かに殺されかけたらしいのだと周囲に匂わせる。一方で、「ユー」編集部の編集長サミュエル(サム)・イーガンほかの主筆や編集の面々も、編集部内に人殺し(未遂)がいるらしいというスキャンダルが湧いた方が、物見遊山で「ユー」が売れるだろうという欲目から、マーリーの転落を殺人未遂事件に仕立てて、世間を沸かせようとする。
 
 1958年の英国作品。

 うーん……。こないだ読んだ同じ作者の『死体狂躁曲』同様、笑えるハズなんだけど笑えない。

 でも前作より前半はまだマシで、特に、マーリーの人生相談コーナーの常連投稿者たちの一部が「あんたの人生相談の回答に従ったらうまくいかなかった」または「妙な回答やアドバイスをしやがって」と、逆恨み的に全国からワラワラ集まってくるとこなんか、それなりに楽しい。
 
 とはいえ、仕事の関係でイッキ読みできず、あと100ページほど残したところで、いったん中断。翌日にまた読み始めたら、前日にはそこそこ感じていた楽しいテンションは、結局最後まで戻らなかった。まあ結局は、その程度の作品なのであろう。
 なんというか、冷めた今の目で全体を俯瞰するなら、作者がやりたいことを盛り込み過ぎて、ギャグユーモアミステリでもっときちんと演出されるべきの筋運びの緩急が無さすぎる。
 悪い意味で小さい山場が続き過ぎ、かえって全体が平板になってしまうのは『死体~』とやはり同様。

 翻訳は意訳もそれなりにあり、あえて原文内の叙述の不整合も訳出時に整理してあるそうだが、とにかく本当に読みやすく文体のテンポも心地よい。
 深町真理子の初期の翻訳書に出会った頃の、懐かしい種類の快感を感じた。
 翻訳がこの人でなければ、たぶん全体の印象はもうちょっと悪くなっていたろう。
 
 設定とキャラクター、趣向だけ言えば、絶対に楽しめる、好みの作品のハズなんだけどな。とどのつまりは、作者との相性が悪いのかもしれない。
 三冊目の翻訳が出ても、たぶん次は二の足を踏むかも。

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