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ミステリの祭典

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総会屋錦城

作家 城山三郎
出版日1963年11月
平均点7.00点
書評数1人

No.1 7点 クリスティ再読
(2023/01/11 00:04登録)
やや反則かもしれないが、これはやりたかった作品。清水一行とか池井戸潤とか書いている方もおられるから、まあいいか。

新潮文庫だと表題作他6作を収録するが、直木賞受賞の「総会屋錦城」は傑作。「総会屋の元老」「人斬り錦之丞」と呼ばれる老総会屋の最後の闘いを描く。側近の視点で死期を悟った老総会屋を徹底した外面描写だけで描いて、これが見事にハードボイルド。「三十以前のことは何も分からない」と妻にさえ言われるほど寡黙、七十過ぎても入獄を辞さない苛烈さによって、自らを律するアウトロー。与党総会屋を操って「シャンシャン株主総会」をするのが当たり前だった時代というのはもちろんオカシイが、そんな歪んだニッポンの「常識」を悪用した「会社の闇の血を吸って生きるダニ」と錦城自身も自嘲する。そんな錦城にアウトローの節度と美意識が窺われて、これが実にカッコイイんだなぁ...ちょいと評者イカれるくらい。この錦城が精魂込めて大逆転を「演出」する最後の株主総会の迫力が素晴らしい。

他の作品だと「輸出」はカラカスで失踪した商社駐在員を同僚が探しに行く話だから「人探し」小説かしら。「社長室」は先代社長の息子視点で、社長の座を巡る暗闘に翻弄される人々を描く。意外な真相があってややミステリ。「事故専務」は神風タクシー会社の事故処理担当者の逡巡をペーソス豊かに描いている...と題材はいろいろ、さまざまな業界の知られざる「業界のオキテ」を教えてくれる。

時代背景が随分変わってしまっているので、評者などは親たちの姿を想起して懐かしいのだけども、「メイド・イン・ジャパン」が粗悪品の代名詞で抜け駆け的なダンピングと関税、自主規制の中で苦闘する姿やら、大戦での沈没艦艇をスクラップ目的でサルベージする仕事と戦没者への想いが絡まる「浮上」やら、若い方が意識しないような「ニッポン戦後の履歴」が克明に刻まれていることに、今読む意義だってあろう。

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