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ミステリの祭典

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女海賊
アル・ウィーラー警部

作家 カーター・ブラウン
出版日不明
平均点6.00点
書評数1人

No.1 6点 人並由真
(2023/01/04 22:11登録)
(ネタバレなし)
 1965年歳末のパイン・シティ。クリスマスまであと5日というタイミングで、殺人事件の通報があった。「おれ」ことパイン・シティ保安官事務所のアル・ウィーラー警部は早速、殺人の現場という、若い女性アイリス・マローンの自宅に向かう。同家では気の早いクリスマス・シーズンのコスプレパーティが開催されており、主催者で広告コピーライターのブロンド美女アイリスが、ミニスカ海賊の姿でウィーラーを迎えた。アイリス当人は自宅で起きた殺人を自覚してないらしい。やがてウィーラーはパーティの客でウサギのコスプレをしていた男性グレッグ・タロンが、パーティを台無しにしないように気を使ってこっそり殺人事件を通報したのだと聞かされる。殺害されたのは、現地で最近、繫盛中の広告会社の代表ディーン・キャロル。彼はロビン・フッドのコスプレのまま、射殺されていた。ウィーラーはやがて、犯罪現場からいつの間にか姿を消したサンタクロースが怪しい? と考えるが。

 1965年のクレジット作品。ミステリ書誌サイト「aga-search」によればウィーラー警部ものの第30番目の長編。
 Amazonにデータがないが、ポケミスのナンバーは1120。1970年8月の刊行。
 
 評者はポケミスの初版刊行(といってもこれは初版しかないかも~カーター・ブラウンブームはとっくに過ぎた時期の一冊だし)後、数年後に新刊で購入した覚えがあるが、当時は訳者がよく知らない人、田中小実昌でも山下愉一でもないのでほっておいた記憶がある。で、今回、改めて確認すると、え、あの高見浩!? まあまあ浩ちゃん、その後、立派になって、とつくづく時の流れの速さを感じたりする(笑)。

 コスプレパーティの現場から逃げたサンタクロース姿の殺人者? という趣向が、ウワサに聞くもう一人のブラウン(フレドリックさん)の『殺人プロット』(サンタクロースが出て来ることは知ってる)を連想させたりしたが、実はソッチはまだ未読(例によって家の中から本が見つからない)ので、比較はできない。

 いずれにしても本作は、数あるカーター・ブラウン作品の中でもハイテンポな方で、関係者の間を調べて回るウィーラーの動きもかなりスピーディ。途中から思わぬ事実が露見し、さらに筋運びは加速感を増し、気が付いたら一時間半で本文140ページの物語をあっという間に読み終わっていた。犯人の正体は消去法である程度わかるが、そこまでの経緯にちょっとひねった部分があり、シリーズの中では佳作か秀作の下。上役のレイヴァーズ保安官があれこれと、殺人事件の実情について仮説を立て、ウィーラーがやや押され気味になる? とこなど面白い。

 シリーズヒロインでレイヴァーズの秘書、ツンデレ美人のアナベル・ジャクスンの名前が巻頭の一覧表にないので、あれ? 今回は欠場かと思わされたが、大丈夫、中盤でちゃんと登場。アナベル・ジャクスンの母親は、行きずりのセールスマンと駆け落ちし、彼女を置いていなくなったというが、本当だろうか?
 ウィーラーとのラブコメ(の手前)ぶりはいつものパターン。今回は自分をネタにするウィーラーに怒りかけた途端、パンティのゴムがゆるんで足元までズリ落ちてるよと騙され、羞恥しながら、さらに激怒する場面など笑わせる。
 
 あと、シリーズ上の特筆は、ウィーラーがこれまで乗用していた愛車オースチン・ヒーリィを売却し、中古の高級ジャガーに乗り換えたこと。こんな事を心得ていれば、いつかカーター・ブラウンファン同士の語らいで、株を上げられるであろう。それがいつの日になるかは、知らないが。

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