大怪盗 |
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作家 | 九鬼紫郎 |
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出版日 | 1980年02月 |
平均点 | 4.00点 |
書評数 | 1人 |
No.1 | 4点 | 人並由真 | |
(2023/01/04 04:55登録) (ネタバレなし) 明治五年九月の東京。警察制度の創始者で警視庁のトップである川路大警視が、欧州の警察制度を学ぶため、日本を離れようとしていた。だがその歓送会の夜、思わぬ怪事が発生。仕掛人は昨今の世を騒がす怪盗「卍(まんじ)」で、当初は世の悪徳政治家や不正な豪商ばかりを標的にして殺傷を嫌っていた賊は、最近は殺人も辞さないようになっていた? だが警視庁に送られたメッセージの主は自らを「ほん卍(ほんまんじ=本物の卍)」と自称し、最近の殺人強盗は自分の偽物の仕業だと主張した。ほん卍は未解決の事件解明の手掛かりまで警視庁に与えるが、これを侮蔑と見た捜査陣は闘志を増加。元同心で「名探偵」の異名をとる原田重兵衛大警部は、卍の捕縛と未解決の事件の捜査に奮闘する。が、東京ではさらに怪しい事件が起きていた。 昭和50年代のはじめに、ミステリ総合解説・研究書「探偵小説百科」の上梓をもって国産ミステリ界に復活した作者が、その5年後に書き下ろした長編ミステリ。大雑把にいえば、山田風太郎の明治ものみたいな世界に和製ルパンが活躍する趣向の物語である。 戦前から昭和三十年代あたりの九鬼ミステリの実作は、昔も今もまるで知らない評者だが、本書が刊行された際には、何やら古参のベテランマイナー作家で、前述の「探偵小説百科」の著者だということくらいは知っていた。 ただし内容からして、いかにも出版業界とのお義理で、久々に一本だけ書いた通俗作品みたいな印象が当時からあり、ずっと敬遠していたが、昨年の後半にまあそろそろ読んでみようか、通俗ミステリ、嫌いじゃないんだし、と古書をネット経由で入手した。で、正月の今日、初めて読んだが、う……ん。 読後にTwitterでのほかの人の感想を拾うと、シンポ教授などは「埋もれた佳作」と評しており、つまりたぶんはソコソコの評価。 しかし正直言って、自分はけっこうキツイ一作だった。 名前のある登場人物が虚実あわせて80人弱。かなりの数で、作品の構造、設定上、そうなってしまうのも理解はできる。 が、とにかく、登場人物の多数さに比例して物語の流れに悪い意味で幅がありすぎ、ストーリーの軸が掴みにくい。 (卍を追う警察の捜査、別の悪党の暗躍、不可能犯罪的な怪事件の続発など、物語の要素は多いのだが、どこを主眼に追えばいいのだ、というシンドさだ。) 文章も読みにくくはないが平板で、悪く言えば、筋立ても文体も冗長。 なおこの作品は、義賊の怪盗側一味と警察側、それぞれの動きの合間に、不可能犯罪めいた事件が起きてミステリ的な興味で読者を刺激する。その辺は本家ルブランのルパンものを想起させる感じで悪くないのだが、肝心の作者がそういうオイシイミステリ要素を盛り上げる気があまりなく、最終的にそれぞれ子供向けミステリクイズ的な決着に収まってしまう。はあ、そうでしたか、という感じ。 実のところ、全体の4分の3は読むのが苦痛。何度もノレず、中断してネットで遊んでは、まあ最後まで読み終えようという半ばマニア? の義務感で、終盤まで付き合った。 クライマックスはそこそこ見せ場があったが、怪盗側の物言いにあまりに不用意でスキだらけの警察側など、ツッコミどころも多い。 表紙折り返しの作者の言葉を見ると、実はシリーズ化を狙っていた気配があるようだが、いや、これは無理だろ、売れないだろ、と思う。何より「卍」のキャラクターに魅力がない。 近々、復刊されるみたいだけど、興味ある人は、良い意味で、あまり期待値を高めないで接するように、オススメする。 |