home

ミステリの祭典

login
冲方丁のこち留
こちら新宿警察署留置場

作家 冲方丁
出版日2016年08月
平均点6.00点
書評数1人

No.1 6点 メルカトル
(2022/12/24 22:40登録)
2015年8月、各マスコミがいっせいに報じた人気作家、まさかの「DV逮捕劇」。9日間にわたって渋谷警察署の留置場に閉じ込められたのち釈放、不起訴処分が下された。この体験を通じて、冲方氏が失望を禁じえなかったのが、世間の常識などいっさい通用しない警察、検察、裁判所の複雑怪奇な実態だ。誤認逮捕や冤罪を生み出しかねない「司法組織の悪しき体質」を変えるには?ベストセラー『天地明察』の作家が世に問う、日本の刑事司法の不条理な現実。
『BOOK』データベースより。

2015年8月22日、場所は秋葉原。「冲方サミット」と題されたファンとの交流と作品発表のイベントが行われた後の打ち上げの場で、作家冲方丁が逮捕された。罪状はDVであった。本書は逮捕後の渋谷署での取り調べや留置場での生活を赤裸々に綴られたノンフィクション小説です。

作者はまず逮捕状をよく確認した上で、その矛盾を発見します。しかし逮捕状が存在する以上身柄を拘束されるのはやむを得ない事。分からないのは何故妻が訴えを起こしたのかであり、その疑問点は最後まで明かされずややモヤモヤ感が残りました。妻は夫に拳骨で殴られ前歯が欠けたと証言するも、そんな事実はないと冲方は否定するけれど、刑事には取り合って貰えません。そして過酷な取り調べが始まります。初日は9時間にも及ぶ尋問に身も心もボロボロに。そして留置場では夜も消灯されず睡眠不足に陥り、食事は薄味で粗末な物ばかりで体力を消耗させられます。同じ房では日本語を解するイラン人を始め大人しい人たちばかりで安堵するも、退屈と精神的に追い詰められる事でなんとか持ち堪えている状態だったと述懐します。

その間に弁護士を経て得た情報と自身の体験から、逮捕状は裁判官があっさりと押印し承認される事、刑事達はあり得ないストーリーを捏造し容疑を認めさせようとする事、被疑者の言い分に耳を貸そうとしない検察官などの実態を目の当たりにします。
拘留中に留置場仲間に著名な作家と知れ渡り、先生と呼ばれるようになったり、釈放されて煙草やアルコールを受け付けなくなったり、色々ありましたが結果この経験を本にすることを決意し本書の刊行となった事に、作者の意地と矜持を感じました。

1レコード表示中です 書評