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ミステリの祭典

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川野京輔探偵小説選III

作家 川野京輔
出版日2022年09月
平均点6.00点
書評数1人

No.1 6点 人並由真
(2022/12/18 04:21登録)
(ネタバレなし)
 1953年に「別冊宝石」誌上に、本名の上野友夫名義で作品を投稿。その後、複数の雑誌に、ペンネームの川野京輔名義を主体にミステリその他のジャンルの短編を発表。のちにNHKラジオ畑の本職スタッフとなり、その立場で無数のミステリドラマ、SFドラマを長年にわたって退職時まで担当した作者の、旧作中短編の集成、その第三弾。
(なお小説は、今回、全部が初めての書籍化。ウヒョー。)
 
 評者は川野の本路線(短編集)は、以前に第一集のみを既読。第二集はまだ未読。
 なお、この第三集の刊行は予定より3年遅れたらしいが、作者は現在も91歳とご高齢ながらお体は矍鑠(かくしゃく)とされている。少し前に眼をお悪くされたようだが、それでも本書には新規書き下ろしの回顧エッセイ(矢野徹などとの親交について)なども寄せており、その健勝ぶりは誠に頼もしい。

 本書の内容は創作編、評論・随筆編の二部に分かれ、前半には26本の中短編を収録。
 その内の3分の2~4分の3くらいが広義のミステリで、あとは歴史もの、中間小説的なものを含めて幅広いジャンルの作品が集められている。

 最初の作品『暴風雨の夜』の二転三転する展開はなかなかで、細部の妙な? 文芸味を含めてちょっと印象に残る出来。
 一番長めの中編作品『犬神の村』などは起伏に富んだ筋立ての昭和殺人推理スリラーで、これはまあまあ。
 ミステリ中の最大の異色作は、謎の怪人「猫男」が跳梁跋扈する短編『手くせの悪い夫』で、これは結末と言うか真相にボーゼン。こういうものが商業小説誌に掲載されていたとは、おおらかな時代だったね、と感嘆する。

 その他の小説(歴史実話風のものも含む)の方は、普通に面白いものもあれば、なんでこんなのをオレはいま読んでるんだろうと思わされたものもあり、感慨のほどは非常に雑駁。
 こちらの非ミステリ系では、流刑になった浮田中納言秀忠とその関係者の悲話を語る『悲願八丈島』と、昭和の青春ヒューマンドラマ風の『東京五輪音頭』が印象に残る。なお後者は企画ものの映画化を想定して書かれた作品らしいが、実際に製作公開された日活の同題の映画とは別もののようである。
 まあ創作パートは、トータルとしては、その辺の気分のアゲサゲも踏まえて、まあまあ、丸々と、楽しめたとは思う。

 評論、エッセイは長短のものを集成。これまで書籍化されなかったものの落穂拾い? という趣もあるが、特にNHK在籍中のいくつかの逸話はなかなか興味深い。

 1950年代に自作のオリジナルSFラジオドラマで新造したSFチックな効果音に自信を持っていたら、そのすぐ後に公開された、あの『禁断の惑星』で、そっくりの? SEが登場していたと自慢するくだりなど、ホホウと思わされたりする。

 内外のミステリラジオドラマについての情報も多く、矢野徹脚色の『血の収穫』など、台本が現存していれば拝見したいものだと思わされる。

 まあ、この辺りは、もしかしたら、著者の上野名義の著書『推理SFドラマの六〇年』にさらにもっと詳しい記述があるかもしれないが(評者はだいぶ前に同書を購入してはいるが、あまりにコンデンスに膨大な情報量のため、まだ通読しきれていない・汗)。

 なお論創の川野作品は、年内にさらにもう一冊、ジュブナイル長編ミステリで初の書籍化らしい『竜神君の冒険』が出る予定だったようだが、年明け以降に順延の模様。焦らず、楽しみに待つことにしよう。 

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