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ミステリの祭典

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シルク警視と宇宙の謎

作家 ユーリ・ツェー
出版日2009年08月
平均点7.00点
書評数1人

No.1 7点 糸色女少
(2022/12/14 22:58登録)
主人公の一人、物理学者のセバスティアンは量子力学の「多世界解釈」の論客だ。原子や電子の世界では複数の状態が同時に重なることがあるが、この解釈は、それが日常世界にも及ぶと考える。異端視されてきたが、正統派解釈にかげりが見える中で脚光を浴びつつある。
セバスティアンはキャンプ場に向かう途中、車を離れたすきに息子を誘拐される。犯人の意図に沿うべく殺人を犯すが、息子は何事もなかったかのようにキャンプ場にいて。誘拐があった世界と、なかった世界。多世界風の筋立てだが、殺人の事実は揺るがない。
セバスティアンと妻の心理戦、肉食系の女性警部に仕える草食系男性警察官の慕情、死期の迫るシルフに恋人が言う「あなたは、私の過去をきかなかった。私はあなたの未来をきかない」という取引。謎解きは男女の心模様と泣かせる言葉を織り込んで潤いを増してゆく。
SFの仕掛けは扱いながらも、並行世界が語られる。滋味に富む洞察力にあふれ、うたい文句の通り「哲学ミステリ」である。

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