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ミステリの祭典

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飛鳥高探偵小説選VI

作家 飛鳥高
出版日2022年02月
平均点6.00点
書評数1人

No.1 6点 人並由真
(2022/12/11 08:19登録)
(ネタバレなし)
 昨年2月、満100歳の誕生日のちょうど一週間前に他界された、その時点でおそらく日本推理小説界最長老だった(だよな?)作者の、論創社版の作品集・第六弾。

 今回は、現在の「小説推理」の前身だった「推理ストーリー」「推理」(ともに双葉社)に掲載された、これまで未書籍化だった中短編(ほとんどが短編)ばかり14編と、ボーナストラック的に短いエッセイ、雑文の類を本書内でのカウントで、数ページ分、集めてある。

 お値段は高めだが、初めて本になる旧作ばかりでまるまる一冊というのは、なかなか嬉しい。

 以下、簡単に各作品のメモ&感想。

『いなくなったあいつ』……新人作家とその友人たちの間で、ある殺意が芽生える。オチはおおかた読めるが、スレッサーとか懐かしのC・B・ギルフォードあたりを思わせるクライムストーリーの佳作。

『死刑』……年増の街娼が出会った青年の素性は? 広義のミステリではあるが、どちらかといえば昭和風の庶民派リリシズムに拠った内容というか。どことなくO・ヘンリーの諸作を想起させる味わいの作品。これも、別の趣で佳作。

『深い穴』……ある夜、工事現場で生じたひとりの若者の転落死。その向こうにある事件の概要とは。本書の巻末の解説では、当時の非行少年ものといったジャンル分けをしているが、そういえるようなそれともまた違うような。長めの割に焦点が定まらない感じで、これはいまひとつ。

『危険な預金』……エリートサラリーマンの過去の秘密とは? いわくありげなタイトルの意味は中盤で判明し、後半は意外なオチに向かう。どこかで読んだような感じもするが、これも和風スレッサー風の一本。

『不運なチャンス』……家庭に問題を抱え、そして不倫をしている男が自宅で見たものは? 『深い穴』同様、50ページ以上の短めの中編作品。テンポのいい内容をそのまま受け身で読んでいたら(中略)。本書中でもベスト1、2を争う秀作編。

『見えぬ交点』……60年代当時のスパイものブームを背景に書かれた、その筋の作品。こういうものも作者が書いていたかと軽く驚いたが、ドライな筋立てが意外に達者で、さらにキャラクターの立て方も部分的に印象に残る。まあ佳作。

『パリで会った男』……殺害された助教授の事件を調べる諜報員「私」。スパイものの二つ目(設定や人物は別のよう)で、こちらの方がやや通俗的で、シリーズものの一本のような味わい。

『殺しは人間にまかせろ』……電子計算機を導入し、合理化を図る職場で生じる殺意。大阪万博を目前に控えた69年の作品で、当時の未来科学観が窺える、広義の社会派作品。一冊読み終えたなかでは、あまり印象に残ってない。

『アウトロー』……海外の戦場で使われる武器を製造し、死の商人めいた業務をしている工場主の娘がさらわれた。誘拐ものだが、当人なりのいびつな正義感から事を行なった犯人側の主張と、主人公の工場主とその家族の言い分が対峙する、これも広義の社会派……というか昭和のキャラクタードラマみたいな話。題材やその作劇上の料理ぶりを含めて、妙に印象に残る。

『薄い刃』『無口な車掌』『分け前』……それぞれ読者向けの出題編と回答編を分けて掲載された小説形式のミステリークイズのような短編(掌編)だが、本書の収録はそういう仕様の作品群ということを明示しておらず、いささか不親切。オチというか真相としては、最初の『薄い刃』がちょっと面白かった。

 以上、トータルではそれなりに楽しめた。作者の作品集第七集もいずれ出るというが、そちらも初書籍化作品が多めなコトを期待。

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