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ミステリの祭典

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かくて彼女はヘレンとなった

作家 キャロライン・B・クーニー
出版日2022年09月
平均点7.00点
書評数1人

No.1 7点 人並由真
(2022/12/08 16:44登録)
(ネタバレなし)
 サウスカロライナ州の一角。シニアタウンのサンシティ。そこに住む70代の現役ラテン語教師ヘレン・スティーヴンスは、世話をやいている近所の偏屈な老人ドミニク(ドム)・スペサンテの家で、奇妙な形状のガラスパイプを見かけた。ヘレンはその情報を軽い気持ちで、メールをやり取りしている遠方の又甥(姪の息子)ベントレー(ベント)・マッキーゼンに伝える。だがそのパイプはさる犯罪に関わるものであり、ベントが不用意にSNSで話題にしたところ、怪しい男が動き出した。そんな状況のなかで殺人事件が発生。だが過去のある事情から、本名クレメンタイン(クレミー)とは別の今の名を名乗り続けてきたヘレンは、なんとしても警察と深い関わりになりたくなかった。

 2020年のアメリカ作品。
 現在形で進行する殺人事件を含む一連の騒ぎと、1950年代に少女クレミーがまだティーンエイジャーだった時代からの物語が交互に語られ、双方のストーリーはときに同じ章のなかで続けて(一行くらいは開けるが)語られる。登場人物もポケミスの巻頭には15人前後しか載ってないが、実際にはモブキャラを含めてその3倍の名前があるキャラクターが出て来る(しかも一回ちょっとだけ名前が出た近所の住人なども、その後しばらくしてからまたしれっと再登場してくることもしばし)。これは絶対に人名メモを作りながら読むことをオススメする。

 とはいえ文章も筋運びも全体的にくっきりしており、作品そのものはかなり読みやすい。日本には初登場の作者だが、誕生は1947年、アメリカではティーンエイジャー向け作品を主体にすでに90冊以上の著作があるベテラン作家だそうである。さもありなん。

 主題というか、作品の大きなポイントのひとつは、ネット、SNSなどを通じて便利になる反面、監視社会になってしまった現代と、個人情報の秘匿があまりにもあけすけで、またある種の犯罪(ここではネタバレになるので書かないが)に関して、被害者の権利や立場にあまり配慮がなかった、法整備が不順だった半世紀前からの時代との比較。そういう要点が、ヘレン(クレミー)の現在形と過去からの双方の物語で照射されていく。

 現在形の物語は事件全体の流れがスリリングに展開する一方、フーダニットの興味がずっと伏在。さらに過去の話の方はサスペンスもの、プラスヒロインを主軸にしたある種のキャラクタードラマの趣で進行するが、それぞれに(中略)。
 部分的に先読みできる面もないではないが、何よりストーリーテリングがうまく、また悪役像(特に過去編の)が強烈なので、ぐいぐい読まされてしまう。

 ラストの着地点についてはもちろんここでは書かないが、本文ポケミスで360ページ強、それなりの量感の物語をじっくり楽しめる良作。クロージングの余韻も印象的である。
 評点は8点に近いこの点数ということで。

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