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ミステリの祭典

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密室演技
志田司郎

作家 生島治郎
出版日1985年05月
平均点6.00点
書評数1人

No.1 6点 人並由真
(2022/12/01 15:36登録)
(ネタバレなし)
 文庫オリジナル。1979~80年にかけて「小説推理」や中間小説誌に掲載された私立探偵・志田司郎主役編の短編を6本集めた連作集。

 以下、簡単に感想、あらすじなどのメモ書き。
(なおブックオフで買った本だが、目次の各編のタイトルの上下に鉛筆で、これは「裏窓」とか「大鹿マロイ」とかネタ元、または連想されるキーワードが書いてあるのには笑った。)

『過去との清算』……不動産業で成功している夫が悪い女に引っかかり、手切れ金を要求されているということで、その支払い役を司郎に願う妻が依頼人。短い尺数にテンポの良い展開が詰め込まれ、真相の意外性もなかなか。

『密室演技』……さる秘密を抱えて司郎に相談してくる、人気アイドル俳優が依頼人。密室殺人が生じるパズラー要素のある、本シリーズでのたぶん異色編。トリックはどこかで見たようなものだが、そういう意味で名探偵役を務める司郎の図が楽しい。

『目撃』……創作中の気分転換に、こっそり町の人々のプライベートを双眼鏡で覗き見する趣味がある若手推理作家の目撃したものは? これが『裏窓』(原作はウールリッチの『窓』だっけ)ネタの話。早めに犯人側のトリックを半ば明かし、後半は別の興味に誘導。

『歪んだ道』……姿を見せない謎の女依頼人がヤクザとの交渉を司郎に願う。『追いつめる』で重要な物語要素だった大物ヤクザ組織の浜内組が再登場し、志田司郎ファンには嬉しい一本。事件の意外性も結構な感じ(ただし、ある趣向から、先読みできる部分もある)。手元の古書の目次には本篇の上に「Good」と書き込まれていた(笑)。

『ねじれた女』……司郎が六本木の酒場で出会った美女は、さる秘密を抱えていた。あまり詳しく言えないが、ファンには、シリーズの中でもちょっと印象に残る話になるかもしれない。クロージングが読み手の情感を煽る。

『悪運に乾杯』……刑務所帰りの初老の男が、悪い男に騙されて覚醒剤中毒になっている娘を救ってほしいと依頼してくる。「大鹿マロイ」と目次の鉛筆書きにあったので、まんまの元カノを捜す話を予期していたが、だいぶ印象が違う。佳作。

 相変わらず、基本はやくざを相手に渡り合うトラブルシューター稼業の話が基本で、その上でそれなりのバラエティ感を抱かせるのは強み。
 大半のエピソードが仕事がない、金がない、という司郎のボヤキから開幕。この辺の人間臭さが(いささかテンプレで定番ながら)、志田司郎というキャラクターが長らく生島ファンから愛された事由ではあろう。

 いろんな長編ミステリの合間に、外出時の待ち時間や車内の読書用にもってこいの一冊であった。

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