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ミステリの祭典

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シェリ=ビビの最初の冒険
犯罪者シェリ=ビビ(ジャン・マスカール)

作家 ガストン・ルルー
出版日2022年10月
平均点7.00点
書評数1人

No.1 7点 人並由真
(2022/11/30 18:43登録)
(ネタバレなし)
 たぶん20世紀の初め。フランスからギアナの流刑地カイエンヌに向かう、大型囚人護送船バイヤール号。その中には40人の女囚をふくむ800人の囚人がひしめき、さらに一部は家族連れで彼らの監視にあたる看守たちが乗船していた。そんな囚人たちの大半からカリスマ的な支持を受ける犯罪者は「シェリ=ビビ(大事な可愛い人)」の異名をとる青年ジャン・マスカール。もともとは肉屋の見習い職人で、地元の年上の令嬢セシリー・ブルリエに片想いの念を抱いていた。数奇な運命の繰り返しから闇の世界で一目置かれるようになったシェリ=ビビは、監房を脱出すると護送船上での反乱を開始したが。

 1913年に初出連載された新聞小説で、定本は1921年に刊行されたルルーの悪漢主人公「シェリ=ビビ」ものの第一弾。
 すでにルルーは1907年の『黄色い部屋の秘密』からルルタビーユものを始めており、そちらが軌道に乗ったなかで新しい主人公の活躍譚を求めて本作を執筆したらしい。

 今回はじめて日本には、ジゴマやファントマと並ぶ「フランスの怪人的悪人」として紹介(第一作が完訳)されたわけだが、シェリ=ビビのキャラクターは「怪人」というよりは、等身大の青年犯罪者という感じで、あえて言えば、おのれの内面について饒舌になり、読者に妙な親近感を抱かせるときのルパンに近い。

 殺人は行なうが、必要があればやむなくためらわず殺すものの、必要がなければ極力、殺傷はしないという線引きもかなりしっかりしている。
 たとえば評者が読んでみて、(最終的な倫理の善悪の枠内での是非はともかく)シェリ=ビビのあまたの殺戮で、その行為の原動が理解できないものは皆無だった。この辺は読み手と作品の距離感の上で、重要な要素であろう。

 物語はハイテンポに進んで退屈することはまったくないが、洋上の反乱劇の第一部と、後半、舞台を変えての第二部。本文一段組ながらハードカバーで通算500ページ以上のボリュームがあり、さすがに軽く疲れた。
 ちなみに本気で物語のサプライズを味わいたいのなら、国書の翻訳書のジャケットカバー折り返しのあらすじも読まない方がいい。中盤の大きなイベントを明かしてしまっているので。

 全体にお話作りは悪くないものの、主要登場人物のなかでしっかりキャラが立っているものと、けっこう悪い意味で記号的に語られて済まされてしまっているものが混在し、その辺はちょっとよろしくない。
 とはいえ印象的なシーンとか、ツボにハマるような細部の描写はなかなかなので、トータルとしては佳作~秀作。クライマックスの死闘のくだりも、なかなか迫力がある。

 なお本書の巻末の解説では触れられておらず、どっかネットで見聴きした情報だと思うが、シェリ=ビビはのちのシリーズのどこかで、我らがルルタビーユとも共演しているらしい(嬉!)。いつかその該当作だけでも翻訳してほしいものですな。

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