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ミステリの祭典

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コンプレックス作戦
秘密諜報員モンティ・ナッシュ

作家 リチャード・テルフェア
出版日1966年01月
平均点6.00点
書評数1人

No.1 6点 人並由真
(2022/11/28 07:11登録)
(ネタバレなし)
「私」こと諜報員モンティ・ナッシュは、DCI(対敵諜報部)のアメリカ本部に呼び出された。そこで上司テイラーと、3人の上院議員、下院議員から受けた説明によると、アメリカ国内で某国の戦略核兵器製造計画が秘密裏に進行しているらしい。その謎の計画の鍵を握るのは、ナッシュのかつての学友で、敵陣衛に洗脳された気配のある不動産業者ニック・トーマスだが、彼はつい先だって死亡したという。暗躍する敵の暗号名は「コンプレックス」? テイラーたちは無制限の費用と人員の人事権をナッシュに託し、最大特権の単独工作員(ソロ・マン)として事態の調査と敵の作戦の阻止に当たらせる。だが、いざ任務に就いたナッシュの前には、敵味方そして一般市民も含めて、死体の山が築かれていく。

 1959年のアメリカ作品。モンティ・ナッシュ、シリーズの二冊目。
 わずかな情報を探りながらナッシュが動き回るうちに、冗談のごとく人死にの描写が続出。
 80年代以降に書かれた、50~60年代スパイ活劇小説ジャンルを振り返ったブラックユーモアのパロディ作品のごときだが、そういう素性のものではなく、正に当該時期ど真ん中のその筋の一冊である。最終的にカウントされるナッシュの周辺で死亡する人間の数は20人近く。そのほとんどが一人ずつ死んでいき、そして最後には世の無常を嘆くナッシュの慨嘆でまとめる。
 いや、ここまで割り切った作りだと、ある意味、潔い。

 とはいえ物語の前半、標的の周辺に接近するため、あるいは探りの手を入れるため、手段を択ばないナッシュの準備の段取りはなかなか面白い。なんたってアメリカを核兵器から守るためという大義があるので、政府の秘密裏の公認でやりたい放題。
 ギャンブル好きの目的の人物に近づくため、NY警察の上級職刑事の同伴付で刑務所から凄腕のイカサマギャンブラーを連れてこさせ、延々延々とカード賭博の特訓を受けるくだりなど、おお、さすがは『シンシナティ・キッド』の原作者! という感じ。最高潮のテンションである。
(コーチの任務を一通り終えて去っていく際の、教導役のベテランギャンブラーとナッシュとの間の妙な連帯感と距離感が、笑えて泣ける。)

 ほかにも初対面の美人エージェントを動員し、これまで任務のために男と寝たことがないという彼女に半ば強引にハニトラを指示するあたりのナッシュのワル? ぶりも印象的。その辺もみんな、アメリカ市民を守るためということで正当化だ。クレイジー。

 テンプレといえばソレ以外の何ものでもない作りかもしれんが、作者の自覚的な毒気もあちこちに透けて見えて、なかなか面白かった。
 といいつつどっかの局面で、DCI本部はナッシュのもとに増援をよこしてもいいんじゃないの? とも思ったが(なんせ、コトがコトだし)、その辺は結局は最終的には、現場判断のヒューマン・ワークということか(ん~?)。
 
 B級の枠は微塵も超えないけれど、微熱にうかされたような勢いでいっきに読める作品ではある。終盤のドンデン返しもパターンといえばパターンながら、このお話の作りには似合うサプライズ。
 
 ヒトによっては、くだらね~読み捨て旧作スパイ小説、と謗るだけの一冊かもしれんが、個人的にはちょっとあれこれ思ったり感じたりするとこはあった。
 佳作……という言葉は、なんか違うな。まあその程度には十分、楽しめた。 

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