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ミステリの祭典

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夜の刑事

作家 ルドヴィコ・デンティーチェ
出版日不明
平均点5.00点
書評数1人

No.1 5点 人並由真
(2022/11/24 08:20登録)
(ネタバレなし)
「おれ」ことステン(ステファーノ)・ベッリは、ローマ警察外人課の警部。だがその裏では、金のために事件のもみ消しやでっち上げも辞さない悪徳刑事だった。そんなステンの裏の顔を知った弁護士マッシモ・フォンタナが、ひそかに頼みごとをしに現れた。用件は二つあり、ひとつはもうじき成人する息子ミノが、ユーゴスラビア人の恋人エルヴィ・ルポヴィクと交際し、抜き差しならぬ状況になっているので対処してほしいということ。もう一つは、フォンタナの妻でミノの義母であるヴェーラが後援している映画業界人マルコ・ロマーニの身元を調べてほしいということだった。大枚の謝礼を受け取り、公務の陰で動き出すステンだが、そんな彼は思わぬ殺人事件に遭遇する。

 1968年のイタリア作品。
 邦訳は、フランコ・ネロ主演の映画公開にあわせて公開されたようだが、くだんの映画は観てない。
 なんとなくカッコイイ題名だけは、少年時代から気になっており、古書店の100円棚で出会ったポケミスを引き取ってきて読んでみる。
 なお現状でAmazonに書誌データがないが、ポケミスは1110番。1970年5月15日の初版発行。

 訳者の千種堅という人はあまり聞かない名だが、当然と言うかなんというか、やはりイタリア文学者らしい。全体的にヒドイ訳文ではないが、ところどころ固い言い回しは少し引っかかった。

 それ以上に気になったのは、場面場面に登場してくる劇中人物、特に女性キャラの固有名詞を意図的に曖昧にしている気配のある気取った叙述。
 具体的には「おれ」(ステン)が、誰かこれまですでに劇中に登場しているヒロインにまた出くわしたことはわかるのだが、名前をはっきり書かないので、一体誰と会ってるのかスムーズにわからない。地の文で髪の色とか目の色とかが描写され、人物メモを参照して、ああ……だな、とわかるとか、そんなことがしょっちゅうあった。作者は(もしかしたら訳者も)絶対に読者を振り回して面白がってるだろ? これ。

 お話の方もチャンドラーのツギハギ長編みたいに事件の軸がズレて次の案件にスライドしていくような作劇に加え、さらにストーリーの整理が悪いときのロスマクみたいなややこしい人物関係が用意されている。
(そのくせ、結構芯となる部分の「実はあの人物は、あの人だったのだ」は、かなり、わかりやすい・笑。)

 いずれにしろ、ジャンル分類でいうなら一匹狼のセミ・ダーティ刑事が主人公のハードボイルドだな。実質、やってることは私立探偵の捜査だが、関係者に警察手帳やバッジを見せて話をスムーズに進める一方、横の仲間の刑事連中との摩擦も相応にあって、その辺はまあ悪くない。

 情景描写の量感的な意味でのバランス、テンポの良さや印象的な場面の設置などの点では、米英のハードボイルドミステリをよく真似てあるとは思うのだが。
 
 そーゆー訳で終盤の方は錯綜する物語の真実を楽しむというより、ついていくだけで必死で、ひたすら疲れた(汗)。エンターテインメントとしては、あんまり高い点数はやれない。

 ただ、ラストの1ページだけはなかなかカッコイイ。
 具体的には言わないが、ビジュアル的にも鮮烈で、確かにハードボイルドしている。

 イタリアのミステリ事情なんて、21世紀の現在までほとんど知らない評者だが、本作の続編は書かれたのであろうか? 本当にちょっとだけ気になる。 
 評点は、まさに「まあ楽しめた」一冊なので、この点数で。

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