バッファロー・ボックス 私立探偵サイモン・ラッシュ |
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作家 | フランク・グルーバー |
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出版日 | 1961年01月 |
平均点 | 7.00点 |
書評数 | 1人 |
No.1 | 7点 | 人並由真 | |
(2022/11/11 15:07登録) (ネタバレなし) 1942年のハリウッド。蔵書家でアメリカ史に詳しい元弁護士の私立探偵サイモン・ラッシュは、助手の青年エディ・スローカムに、依頼人を追い返せと命じた。それは、いかにも採掘師風の外見の赤毛のヒゲの老人である依頼人が「ランスフォード・ヘイスティングス」と名乗ったからだ。ランスフォード・ヘイスティングスとは、西部史に残る大規模な遭難事件で飢餓のなかで仲間の死肉まで食したという、1846年に起きた悲惨な「ダナー事件」の重要関係者の名前であった。それでも強引に事務所に押し入ってきた男は、複数のバッファローの細工が表面にある箱を持った男を捜してほしいと依頼を請うが。 1942年のアメリカ作品。 第二次世界大戦の序盤の時期に刊行された作品で、さる件から日本のことも話題になるが、もはや行き来が難しいような叙述がある。戦争の影はその程度に匂わされるが、出兵してる者がいるとかそういう話題も特にない。当時のアメリカ国内の雰囲気の一端が窺えるかもしれない。 グルーバーにしては珍しく純粋な私立探偵の主人公、しかもインテリでそれなりに行動派のラッシュのキャラクターはなかなか魅力的。 事務所の経営者としての立場ゆえか、外注の探偵を使ったり、小者から情報を得るためなどのお金をギリギリまで出し渋るのも、いかにも、作者自身が安い稿料で働く創作者である苦労人グルーバーの生み出したヒーローという感じ。 物語はかなりテンポがいい反面、数十年単位のアメリカ近代史に話が広がっていき(あらすじに書いた「ダナー事件」は現実に生じた悲劇だそうな)、主要関係者の何世代も前の人物たちとの関係性まで話題が及ぶので、とても錯綜している。 読むつもりなら絶対に、最低でも登場人物メモ、できれば家系図を複数作る心構えでのぞんだ方がいい。 (逆にいうとRPGゲームなどでマッピング作業をすること自体が楽しめるタイプの人なら、なかなか楽しめそうな作品かも。) さらに現在形1942年のミステリとしてもそれなりに複雑で、物語の中心といえるダナー事件がらみの大きな謎と並行して、殺人事件の真犯人探しがあるが、こちらはちょっと気を抜くとごちゃごちゃしそうな気配がある一方、最後の意外な? 真相も正直、あまり面白くない。 いや、作者グルーバーが作りこんでミステリ的なサプライズを読者向けのサービスとして盛り込んでいるのはとても感じられるのだが。 ちなみに読後に諸氏の本作の感想を拾うと、Twitterなどでは川出正樹が「既訳フランク・グルーバーの中でも一頭地を抜いて面白い作品」と賞賛。一方で小林信彦などは「地獄の読書録」で、前半は面白いが後半はオソマツ、と評価(100点満点で75点だから、そんなに悪くないんだけど)。 評者的には、力作で楽しめた部分も少なくないんだけど、謎解き部分が高めのファールという感じでそこはイマイチであった。 川出評のほかにもどっかで本作をホメていた感想を以前に読んだ記憶があり、グルーバーの未読の作品のなかではそれなりに期待していたが。 でまあ、サイモン・ラッシュがシリーズキャラクターになったのかどうなのかは知らないが、その絶大な機動力と、古書マニアで読書家という人物造形はかなりスキになったので、もし他に主役編があるなら長短編問わず読んでみたい、とは想う。 そういえば本作はたしか、パシフィカの名探偵読本シリーズの「ハードボイルド」編にも記載、紹介されていたと記憶する。いや、まったく異論はないね。 好き勝手なライフスタイルにこだわり、経費をケチりながら、おのれの求めるままに事件の謎を追うラッシュのキャラクターは完全にハードボイルド私立探偵じゃ。 【2022年11月13日追記】 おっさん様からのご指摘で、サイモン・ラッシュはシリーズ探偵で、本作は二番目の長編ということもご教示いただきました。ありがとうございました(嬉)。 |