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ミステリの祭典

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嫌われ者の矜持

作家 新堂冬樹
出版日2022年07月
平均点7.00点
書評数1人

No.1 7点 人並由真
(2022/11/10 05:47登録)
(ネタバレなし)
 スキャンダル記事を売り物とする写真週刊誌「スラッシュ」。その主力記者である35歳の立浪慎吾は、業界では肉食獣「リカオン」の異名で知られる辣腕編集者だった。人気タレントや有名人のスキャンダルを飽くなく追い続ける立浪だが、その胸中にはかつて芸能人の醜聞を追い求めながら表向きは自殺の形で殺された同業の父・正藏の復讐をしたいという強靭な思いが潜んでいた。立浪は、仇と目する芸能界最大の大物で、政界や暴力団とも密な関係のある「帝都プロ」の二代目代表・大河内に挑むため歩を進めるが、その前には予想を超えた事態がいくつも待っていた。

 「文春砲」だの「忖度による報道自主規制」などのワードが幅を利かす21世紀の現実を背景に、復讐の念から自らの手も汚しながら巨悪に挑む主人公の物語。
 新堂作品は5~6年くらい前から、適当にその年その年の新刊のみ、つまみ食いで読んでいて、たしかこれで4~5冊目。

 人間の裏切りに恐怖とバイオレンス、しかし最強のストーリーテリングぶりで、どれもおおむね読み出したら止められない。まあ通俗小説なんだろうけど、二転三転の話の転がし方には、ミステリファンが読んで楽しめる部分もあるし。
 
 でまあ、今回もお話の捻り具合や転がし具合は見事だが、ドギつさに関しては意外に地味でおとなしく(これまでちょっとだけ齧った新堂作品に比べれば、で、あるが)、あ、ラストもそういうまとめ方? という印象。
 なんかお話をまとめるために(中略)という概念を盾にとったようで、ちょっとコシャクだ。

 一方で、自分が読み始める前の前世紀~2010年代前半の全盛期? の新堂作品は、近作とは比べ物にならないくらいドス黒かった、とは、よく新堂ファンの述懐で聞くところなので、たぶん今回の作品など、それなりにバイオレンスな場面があろうと、トータルではさほど大したことはないのであろう。
 しかしその程度の薄口の分、ドギツさに頼らずに二転三転するお話の方をしっかり楽しませてもらった感触もある。

 新堂作品の旧作は、こわいものみたさでいつか手にとってみたいとも思うが、自分のような読者には、この程度に作者らしさが希釈? された仕上がりの方がいいのかもしれない。
 いずれにしろ、読んでる間はフツーに面白かった。佳作~秀作。

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