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ミステリの祭典

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マイクロチップの魔術師

作家 ヴァーナー・ヴィンジ
出版日1989年01月
平均点7.00点
書評数1人

No.1 7点 クリスティ再読
(2022/11/07 17:46登録)
GNUの総帥でハッカーの生き神、R.S.Stallman がこの小説を「ハッキング精神をもっともよく表現している」と評したことで有名な、サイバーパンクの先駆と評される中編小説。

サイバーパンクSFを「ジャンル」として見たとき、特徴的な要素として
・サイバースペース(意識拡張・変性意識)
・技術の過剰な発達と頽廃、それに対する反抗(パンク要素)
・ジャパネスク(西洋文明との葛藤)
が「ニューロマンサー」を整理したら抜き出せるのだけども、意外なくらいにこの3つが揃った作品って少ないんじゃないかと思う。本作はサイバースペースに特化した作品で、「脳波によるプログラミング」というアイデアでサイバースペースを実現している。サイバースペースをRPGみたいな中世風の衣装を被せて表現することのオリジネーターになるわけだ。
でもそれを「ファンタジーとの融合」というようなありきたりのアイデアにしないあたりで「サイバーパンクの先駆」という評価に繋がっている。「心の社会」のマーヴィン・ミンスキーがこの本の解説で明らかにしているのだが、「ファンタジーの衣装」を「インターフェイスの問題」として捉える視点がある、というのがキモなんだよね。
インターフェイスは「使う人」の都合によってどんなものであっても構わない。同じサイバースペースに居たとしても、それぞれが使うインターフェイスには共通性がないこともある....いや実はこれは、現実社会での「人間同士のコミュニケーション」でも同じことなんだ、というのが一回り回ったサイバーパンクな結論でもあるのだ。

いやでも、この作品結構ミステリ風味がある。サイバースペース経由で世界を征服する陰謀の背後にいる「郵便屋」の正体もさることながら、主人公と一緒に「郵便屋」と戦ったエリスリナの正体もなかなか泣かせる、というかちょいと評者憧れるものがあるなぁ。

(今時だと<真の名前>は「接続元IPアドレスから開示されるプロバイダ契約者情報」ってことになるんだったら興ざめなんだがなあ...多段串の時代じゃないし)

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