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ミステリの祭典

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鬼の都

作家 西村寿行
出版日1992年04月
平均点5.00点
書評数1人

No.1 5点 人並由真
(2022/11/04 14:41登録)
(ネタバレなし)
 その年の夏。新宿の市街で、体を6つにバラバラにされ、そして局部を切除された男性の死体が見つかる。凄惨な凶行は繰り返され、謎の犯人者は「鬼」または「情鬼」と呼ばれた。警視庁の刑事・中丘記文(きふみ)、検見(けみ)保行たち捜査陣は犯人を追うが、恐怖と狂気に包まれた関東の周辺では「鬼」の模倣犯らしき犯罪が登場。さらにレイプや殺人、強盗などの事件が続出し、人の心を失った犯罪者は「マン・イーター」と総称される。そんななか、公安の幹部・左岸高則は、とある可能性に着目。そして「鬼」を標的「第20号」と定めた、政府も半公認の闇の自警団「私設刑事裁判所」の「特別処刑人」たちも殺人鬼狩りに乗り出すが。

 光文社文庫版で読了。
 最初の1ページ目から世にも陰惨なバラバラ死体の登場で開幕。フツーならヘキエキするところだが、こっちはもう、あの『わが魂、久遠の闇に』も『峠に棲む鬼』も読んでるのである。猿の軍団、猿の軍団、いや西村寿行の作品、何するものぞ、という感じで読み進む。

 寿行作品としては、あとの方の一作。
 謎の殺人鬼「鬼」(劇中には当人が結構、早く登場するが)の連続凶行のなか、無数の民衆たちの人心が失われていく文明的な荒廃の描写、さらにけっこう早めでのかなり予想外の展開(文庫の解説でネタバレされてるので読まない方がいいよ)など、中盤まではなかなか面白い。
 しかし主人公コンビの捜査が「鬼」捕縛に向けて実を得ないうちに、別の力関係の公安や「私設刑事裁判所」などが劇中に台頭。特に後者は、元・法務大臣やら法曹界の大物連中が幹部を務める「法律で裁けない悪を自ら裁いて殺す」、仕置人もしくはワイルド7みたいな闇組織で、作者はそっちの方を書く方が面白くなったのか、作品全体が段々といびつになってくる。
 でもって「鬼」の正体と扱いは、たぶん後期の寿行作品にありがちなよくも悪くもスピリチュアルな方向にいってしまう感じで、よく言えば読者にあれこれ想像を任せる仕上げ、悪く言えばしごく適当な叙述で済まされてしまった思い。そして、主人公の文芸設定は……なんでしょうな、コレは。

 それなりにネタも用意され、書き込まれているのだけど、もはやこの時期の寿行は手慣れたものを書き飽きたのか、中盤以降が全体に緊張感がなく、情報は多いけれど、ゆるい感じの一作であった。

 もちろん評者なども未読の寿行作品は山のようにあるけれど、これほど当たりはずれが大きいとは……まあ十分に予想内の範囲ではあるな(笑)。『白骨樹林』みたいに、世の中の高評と自分の評価がまるで一致しない作品なんかもあるし。ま、傑作も駄作もひっくるめて、寿行の世界ではある。

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