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ミステリの祭典

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眼下の敵
英国海軍駆逐艦ヘカテ艦長 ジョン・マレル

作家 D・A・レイナー
出版日1985年12月
平均点8.00点
書評数1人

No.1 8点 人並由真
(2022/11/01 05:05登録)
(ネタバレなし)
 1943年7月。ゲーリングの密命を受けたドイツ海軍の潜水艦U21が、アフリカ海域を潜行する。だがその存在は、海上の英国海軍駆逐艦ヘカテ(艦長は32歳で甘党の青年ジョン・マレル)に発見され、U21側の気づかぬまま長時間の追尾を受けることになった。そしてU21艦長でドイツ貴族出身のペーター・フォン・シュートルベルクは、ついに敵駆逐艦の追跡を認知。ここにUボートと英国駆逐艦との一対一の正面勝負、激しい海戦が開始された。
 
 1956年の英国作品。
 作者D・A・レイナーは1908年の英国生まれ。1925年に英国海軍に入り、第二次世界大戦中には英国史上最初の駆逐艦艦長に就任。二度の受勲を経て戦後もそのまま海軍に残り、中佐にまでなった筋金入りの戦艦乗りという。

 本作はロバート・ミッチャムとクルト・ユルゲンスの主演で映画化され、評者の当家では少年時代に家人が日曜洋画劇場? などで何回か鑑賞し、非常に気に入っていた思い出がある。
 とはいえ評者自身は、名作と評判のくだんの映画はいまだ未見(汗)。ネットで映画版の噂を拾うと大筋はほぼ原作と同一なものの、ヘカテの所属が米国海軍に変更。またラストなども相応に差異があるらしい。まあいつか、観る機会もあるとは思う?

 というわけで今回は(今回も)あくまで原作小説のみの感想、レビュー。

 ちなみに評者は、本邦最初の邦訳本、パシフィカの元版「海洋冒険小説シリーズ」(1978年)で読んだ。
 なお本作は同叢書の通巻ナンバーの1冊目で、書誌リスト上はトップバッターとなっていた。
 で、後年の創元文庫版がどうなっているかは現状で知らないが、パシフィカの叢書は基本的にかなり図版が豊富。本作の場合も、主役の二隻~駆逐艦&潜水艦の内部図解をはじめ、両船の航跡、各戦局局面での船体の行動図、さらには山場での船体のダメージ状況まで図示してくれる、誠に親切な作り。おかげで物語や状況の理解が、本当に楽であった(笑)。

 本文の文章は、逐次の戦闘描写や戦いの局面を綴るために必要なこと以外はほとんど触れず、主要人物の内面描写も本当に必要最低限な分だけ語りながら、ストーリーをぐいぐい進めていくつくり。
 艦長や乗員たちの心情を覗く叙述がまったくない訳ではないが、とにかく饒舌になるのを恐れつつ、それでも書きたいポイントだけは堅実に押さえていく感じだ。ある種のハードボイルドめいた文体に、近いものすら見やる。
(なんというか、野球小説なら、試合でグラウンドに立つ選手の一挙一動を必要な分だけ書いて、それで読者視点の緊張感を絶対にゆるめさせない、そんな絶妙な手際とでもいうか。)

 現代のソナー技術の前身的な索敵装置「アスディック」機構の重要性とか、一発が2トンもあり、装填に数十分以上も費やす魚雷の慎重な扱いとか、正に海戦の現場を知り尽くした作者ならではのリアリティもいろいろ興味深い。
(船体サイズはUボートの方が駆逐艦の大体10分の1、海中上下への移動ができる分、機動性に優れるが、一方で火力の総力は駆逐艦の方がはるかに勝る、という、一種の異種格闘技ともいえる面白さを十二分に堪能できる。)

 でもって、すんごく面白い! しかし当然ながらこれはガチガチのシリアスな戦争海洋冒険小説(それでもあくまでエンターテインメントであろうが)……と思いながら読んでいると、いっきょに最後で、ある種のキャラクターものの小説としてハジける(この辺は、これ以上詳しく言わない方がいいな)。
 あー、こういう部分も含めて踏まえて本書は「名作」なんだね、と心底からニヤリ♪ とすることに。

 パシフィカ版で本文220ページほど。創元文庫版も現物を見たことあるけど、けっこう薄目。
 しかし非常に(尺数に比して)コストパフォーマンスの高い優秀作だとは実感。
 北上次郎などはパシフィカのこの叢書のなかでは、イネスの作品と並べて筆頭の上位に推してるらしいが、まあ、そうでしょう、そうですよね、という率直な感じ。

 なおレイナーの海洋ものは、ほかにも邦訳があるみたいで、ネットの感想を拾うと本作より良いものもある、という主旨のことを言っているヒトもいるみたいだ。ならばそのうち、他の作品も探して読んでみよう。

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