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ミステリの祭典

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サブウェイ・パニック

作家 ジョン・ゴーディ
出版日不明
平均点7.00点
書評数1人

No.1 7点 人並由真
(2022/10/30 06:44登録)
(ネタバレなし)
 1970年代のニューヨーク。元・傭兵のライダーは、元地下鉄運転士で41歳のウォリー・ロングマンとともに、前代未聞の犯罪計画を立案。それは、さらに二人の男を仲間に加え、地下鉄レキシントン・アベニュー線の列車車輛をハイジャックするものだった。乗客を人質に、NY市から100万ドルの身代金を要求。かくして同レキシントン・アベニュー線のベルハム123号車、その先頭車輛が機関銃を持った4人の男に占拠され、運転士と乗客の計17人が人質になるが。

 1973年のアメリカ作品。
 三回映画化されており、それらの中で最初の映画版では、捜査陣側の登場人物が相応に整理されていることなども知っているが、実は評者はそれらの映画版は一本も観ていない(笑)。
 特にその第一作目の映画版は、監督があの名作SF映画『地球爆破作戦』のジョセフ・サージェントだから、観ればかなりの確率で面白いのだろうとは思うが?

 閉鎖空間にこもる犯人側と地上の捜査陣・行政側との駆け引き、密閉された場での人質と犯人の緊張感、さらには地下鉄の路線という定まったコースの上を疾走する車輛のなかで、犯人はどのように強奪計画を完遂し、逃走するつもりなのか? あるいは……!? という作劇上の要素がそれぞれ強烈な訴求力となり、一気読みはまず必至。

 物語の流れを追う三人称のカメラアイが縦横無尽にこまめに切り替わるが、名前がちょっとでも出る登場人物の総数は70人前後。このタイプの作品としてはそんなに多くはなく、うまい具合にキャラクター配置がされているといえる。
(元版の邦訳書、ハヤカワ・ノヴェルズのハードカバー版で読んだが、この内容の割に本文のページ数は約260ページと結構、少な目だ。)

 ちなみに17人の人質のキャラクターの全部が全部、しっかりドラマに活かされる訳ではないし、さらに言うと(中略)という観点で一部の登場人物のポジションが先読みできちゃう面もあるが、それはそれでそこからまたさらなるヒネリがあって面白い。
 派手めなクライマックスを経ての渋めのクロージングも味があって良かった。

 作品の全体の雰囲気としては、かの『シャドー81』または初期カッスラーや初期ラドラムなどの、いわゆる70年代半ば~80年代あたりに隆盛した「ニュー(ネオ)・エンターテインメント」の先駆的な一本で、その辺の興味をコンデンスにした感じ。
 そのニュー・エンターテインメントの前の娯楽フィクション(小説、映画を問わず)の時流であった「パニックもの」の、広義の一本ともいえるか。

 先日たまたま、ネットの某所で本書の作者ジョン・ゴーディの名前を目にして、そーいや大昔に『ザ・スネーク』(NYの市街を猛毒を持った蛇が逃げ回り、市民が恐怖におびえるパニックサスペンスもの)は楽しんだけど、いちばんメジャーなこの作品は読んでなかったな、と思い、このたび読了。

 期待どおりというか予想通りにフツーに面白かった。
 良い意味で登場人物たちを駒にしてストーリーを進めるお話の作りがとても達者だな、と思いきや、随所に、そして終盤に、妙に小説的に作家の物言いたげなキャラクター描写も出てきて、その辺の作品の厚みには普遍性を感じる。
 評価は、かなり8点に近いこの点数ということで。

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