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ミステリの祭典

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闇からの狙撃者
実作:大谷羊太郎/警視庁捜査一課・興梠(こおろぎ)警視

作家 鷹見緋沙子
出版日1981年06月
平均点5.00点
書評数1人

No.1 5点 人並由真
(2022/10/28 06:48登録)
(ネタバレなし)
 埼玉県の農家・大河原家で起きた、土地の売却金2億円を奪った強盗事件。だが二人組の犯人の間でトラブルが発生し、一方が相棒に傷を負わせた上、2億円の現金を持って逃げた。それから5年の時が経ち、中堅企業「P繊維」では、会社の内外で複数の男女のひそかな欲望と思惑が渦巻いていた。
(表題作)

 文庫オリジナルの一冊で、徳間のミステリ専門誌「ルパン」に掲載された表題作(かなり短めの長編)と、短編『覆面レクイエム』の二本を収録。
 その双方に警視庁捜査一課の刑事で、興梠(こおろぎ)警視が登場する(とはいえ、ほとんど脇役で、特に表題作の方は最後の数行に名前が出るくらいだが)。一応は、同一の世界観での、広義の連作シリーズ。ほかにも鷹見作品のなかには、このシリーズに該当するものが、まだあるのかもしれない。

 覆面作家・鷹見緋沙子の正体が複数の作家チーム(大谷羊太郎・草野唯雄・天藤真たち、中島河太郎が企画プロデュース)の合同ペンネームであり、作品によってその作家が参加したりしなかったりの連携で、数冊分の著作をものにしたことは、すでに多くのミステリファンの知るところ。
 中でも天藤真が主力で関わった作品は、その天藤名義で創元文庫に現在は入れられているので、逆に言えば本書の二編は、残りの作家たちの実働によって著されたことになる?

 長編、短編ともに、男女間の愛欲や欲望をからませあったサスペンス編だが、それぞれラストまでにはそれなりのサプライズまたはどんでん返しが用意されている。
 ともにサクサク読める、昭和っぽいB級~Cの上級のサスペンス読み物ミステリというところ。評点はこんなものだが、そういったB~C級リーグの枠内では、それなりに楽しめたかも。
(なお、評者的にはもうひとつ、本書の二編に共通するミステリのタイプカテゴリー名を言いたい気もあるのだが、それを言うともしかしたらネタバレになってしまうオソレもあるので、やはりナイショにしておく・笑。)

 紙幅が短い分、無駄な? 昭和風俗描写などもほぼ皆無。両編とも、とにかく絡み合う登場人物の図式だけで物語が構成され、その辺はある意味で潔い。
 21世紀のいま、その辺の筆慣れした作家なら双方それぞれのプロットで、倍の長さに平気でしちゃうかもねえ。

 しかし表題作のタイトルは、なんとなく浮いてるというか、内容と微妙に反り合ってないような……(いやたしかに、該当のシーンはあるのだが)。まあこの表紙(徳間文庫版)で、このタイトルという妙なマッチングぶりも味ではあるけれど。

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