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ミステリの祭典

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その少年は語れない

作家 ベン・H・ウィンタース
出版日2022年08月
平均点8.00点
書評数1人

No.1 8点 人並由真
(2022/10/27 16:50登録)
(ネタバレなし)
 2008年。ワーナーブラザーズとかの現場で働く映画美術大工職人リチャード(リッチ)・キーナーの息子で14歳のウェスリー(ウェス)が頭を打ち、危険な状態となった。彼は地元の「バレービレッジ病院」に緊急搬送されるが……。そして11年後の2019年。とある宿泊施設で、リッチがとある女性を殺害したとの容疑で逮捕された。11年前にキーナー家の悲劇に関わり合った弁護士ジェイ・アルバート・シェンクは再び同家と接触し、リッチの妻エリザベス(ベス)の依頼でリッチの弁護を引き受ける。だが十年以上に及ぶ事態の裏側には、想像を絶する何かが潜んでいた。

 2021年のアメリカ作品。
 大好きな「地上最後の刑事」三部作の作者ウィンタースの新作ということで、いそいそと手に取った。
 物語はごく短い2019年時勢のプロローグを経て、2008年のウェス少年への大病院の医療措置、その過失をめぐる民事訴訟の流れに突入。この過去のドラマと並行する形で2019年現在の殺人事件の裁判沙汰が語られていく。

 で、双方のストーリーのそれぞれ小出しにされる情報を頭のなかで(例によって人物メモも取りながら)整理しつつ、読んでいくと……途中で、はぁ~!? とあまりにも思わぬ方向に(!)。
 これは(中略・某大作家の名前)だったのか!!? と仰天したが……。これ以上は書かない方が、絶対にいいだろう。

 それで最後はなんとも言いようのないバランス感のなかで作品がまとまり、最終的にそうやって形成された物語全体の印象が、かなり読み手を打ちのめす。

「地上最後の刑事」三部作のファンがもし、あの寂寞たる末世感の詩情めいためいたものを本作に期待するなら、そういったものは得られない。
 が、別の独特の感興と情感、そして本作固有の読後感は授けられるだろう、とは考える。正に、本作は、そうそうあるタイプの作品ではないだろうし。

 なお筆力のある作家の著した小説としても、とても読みでのある内容。
 いきなり前半から、民事訴訟の仕事を受注しようと、唖然とするほどの労力を費やす主人公のひとり、弁護士ジェイの描写に圧倒される。
(はずかしながら、アメリカでの民事訴訟の場合、弁護側の証人喚問などにかかる費用は弁護士が持ち出しで先に金を払い、あとから依頼人に成功報酬で請求。時には時給を払って専門家を呼ぶなどとか、初めて知った。まあ州や時代によって違うのかも知れんが。)

 とりあえず「地上最後の」三部作ファンの人は、作者の力量を信じて読まれるがヨシ。あ、もちろん一見の人が読んでも、まったく問題はない一冊。

 それにしても今年の新作は、国内外ともに秀作・話題作が多いのう。いや、良い事だが(笑)。

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