リヴァーサイドの殺人 |
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作家 | キングズリイ・エイミス |
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出版日 | 1977年12月 |
平均点 | 6.00点 |
書評数 | 1人 |
No.1 | 6点 | 人並由真 | |
(2022/10/07 04:31登録) (ネタバレなし) ロンドン郊外の住宅地。そこで、土地の博物館から古代人の骨が何者かに盗まれる事件が発生した。そんな騒ぎのなか、不動産業者の代理人で元空軍大尉のウォルターを父に持つ14歳の少年ピーター・ファーノウは、一つ年上の美少女ダフネ・ホジスンをどうにかモノにしたいと、青い欲求を抱いていた。やがてある日、ピーターが自宅にいると、近所の嫌われ者の青年で食料品屋のクリストファー・インマンがふらりとファーノウ家の庭に出現。なぜか重傷を負っていた彼はそのまま死亡した。土地の名士で元刑事のマントン大佐はこのインマンの死を殺人事件と認め、かつての部下だった刑事たちに協力する形で捜査に乗り出すが。 1973年の英国作品。 作者キングズリイ(キングズレー)・エイミスの名は世代人のミステリファン、また英国文学の読書人にはなじみ深いが、その実績のほどは21世紀の現在、もうひとつピンとこない(評者の見識が狭いということももちろん大きいが)。 初期の躍進作で戦後の英国の青年たちの群像を活写したといわれる青春小説『ラッキー・ジム』は1958年に日本でも翻訳が出ており、意外なところではあの「おもいでエマノン」シリーズの作者・梶尾真治などが高く評価しているようではある。ただその後、同作『~ジム』は再刊も新訳もなく事実上、半ば幻の作品のようだ。 創作意欲にあふれて純文学からエンターテインメントまでジャンルを問わず幅広く著作を上梓したのはよいが、そのために当然ながら作家性もきわめて俯瞰しにくく、本国では数十冊ある著書のうち、日本ではほんの一部しか邦訳が出ていないのがエイミスという作家の実情であろう? (もしかしたら当人は、グレアム・グリーンあたりに倣い、さらにその方向性を拡張してるのかもしれんが?) かくゆう評者も、そんなエイミスの著作のなかで読んだのは、別名義(ロバート・マーカム)の『007/孫大佐』とエイミス名義での007研究書『ボンド白書』そして今回のこれ(『リヴァーサイドの殺人』)だけだ。 (買うだけなら、さらにもうちょっと購入してあるが。) せめてエイミスがミステリジャンルを執筆するときに、シリーズキャラクターの捜査官でも創出しておけば、だいぶ我が国での扱いも変わったろうに、とも思う。その辺は大きかったのではないか。 で、本作『リヴァーサイドの殺人』だが、翻訳担当の小倉多加志によればエイミスが初めて意識的に書いた「本格ミステリ」とのこと。これは原文がどうなってるかわからず、エイミスは意識的に謎解きパズラーを書いたとも、あるいは広義・狭義のミステリを本腰を入れて執筆した、ともとれることになる。 一読すると、実質的な主人公の少年ピーターを主役にした青春小説の趣あり(彼自身が主体的に推理したり、事件を追ったりするわけではないので「青春ミステリ」とはいいがたいが)、もうひとりの主人公で初老の元捜査官マントン大佐が指揮する警察小説の風格あり、そして確かに、独特の殺人トリックを用いたフーダニットパズラーでもある、そんなジャンルミックス的な作品になっていた。 少なくとも真部分的には間違いなく、犯人当て、そのほかの細かい謎の興味をちりばめた、謎解き作品ではある。 そういう意味ではなかなか地味めながら楽しめる作品だったが、惜しむらくは作者の計算違いがあったのか、意味ありげに語られたはずの(中略)のパートの叙述が(後略)だったこと。 あと、これは良かれ悪しかれだが、やはり小説としての比重がピーター主役の青春ドラマに重きを置いてしまったこと。ただしこっちに関しては、妙な(あるいはしごく直球の)少年の日の一幕が語られ、それがミステリ部分と溶け合う側面もあるので、作品の個性を出すうえで意味があったともいえる。 (なんかね、ティーンエイジャーがメインで活躍する昭和の国産ミステリっぽいんだよね。) くえない紳士ながら、妙に人間臭く、そしていくばくかの優しさを見せる探偵役のマントン大佐はけっこういいキャラクターだった、とは思う。繰り返すが、この人を主役にあと数冊シリーズもののミステリを書いていたら、エイミスはたぶんもっと日本でも受け入れられていたかもしれない。結局、そういうイロケが良くも悪くも生じなかったところが、もしかしたらエイミスの器用貧乏的な創作者、という印象につながっていくのかもしれない(まあ、わずか数冊だけ著作をかじった程度で俯瞰的なことを言うのもみっともないから、その辺にしとくけど・汗)。 そのマントン大佐、大のミステリファンという設定で、彼の書斎のシーンにわれわれがおなじみの作家の名前(カーやらロードやらバークリーやら)や作品(『矢の家』やら『ナイン・テイラーズ(本書の訳文では「九人の仕立屋」と表記)』やら『ブラウン神父』やら『スタイルズ』やら)が登場するのも実に楽しい。 マントン大佐がピーターに、時間つぶしにこれを読んでなさいと渡すのは『影なき男』とカーのあの作品だ(笑)。 ん-、やっぱ、マントン大佐シリーズ、もうちょっと読んでみたかったねえ(これで実は、未訳のエイミスの著作のなかに、マントン大佐もののミステリがまだあったりしたら、赤恥だが。……まあそれはそれで、ウレシイ驚きだ)。 |