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ミステリの祭典

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真夜中の復讐者

作家 ジャック・ヒギンズ
出版日1982年03月
平均点6.00点
書評数1人

No.1 6点 人並由真
(2022/10/02 20:56登録)
(ネタバレなし)
 1960年代の半ばのエジプト周辺。「わたし」こと20代半ばのステイシー・ワイアットは、非合法な金塊の輸送に参加し、アラブ共和国の監獄で強制労働を強いられていた。そんな私を救ったのは、かつての傭兵時代のリーダーでワイアットの師匠ともいえる巨漢ショーン・バークとその部下たちだった。ワイアットを救出したショーンは、さる富豪の実業家の令嬢を誘拐した山賊の手からその女性を救出する仕事を依頼されており、ワイアットにもその仕事に加わるように申しでる。そしてその仕事の地はシチリア。ワイアットの祖父でマフィアの最高クラスの大物ビト・バルバッチアの、直轄の土地だった。
 
 1969年の英国作品。ジャック・ヒギンズ名義では二冊目の長編だが、作者はこれ以前にヒュー・マーロウだのハリー・パターソンだのの筆名で、のべ10冊ほどの著作を上梓しており、創作者としては油の乗ってきた時期の一冊だろう。

 のちのヒギンズの諸作でも何回か主題になる、マフィアがらみの話。主人公の青年ワイアットは祖父が統括する組織からは距離を置き、傭兵として独自の生き方をしているが、マフィアそのものを嫌悪しているわけではない。その意味ではある種のプリンス、御曹司的な立場にある。
(祖父バルバッチアの方も、麻薬や売春で利益を出すことを由としない、昔気質のヤクザだが。)

 お話そのものは、邦訳本の帯で中盤以降の展開がバレバレ。というよりそれ以前に、本作をフツーにエンターテインメントにするにはここでこうなるんだろうな、という真っ当な物語の流れに行きつきすぎる。

 いつか漫画家の五十嵐浩一(『スクラッチタイム』とか『ペリカンロード』とか)がなにかヒギンズの作品をいくつか読んで、みんな同じで、これでいいのか? と嘆いていたが、まあそういう文句も当たらずとも遠からず。

 後半、逆境の主人公ワイアットと、今まで物語の背景的な要素だった(中略)はクライマックスに至ってもう少し文芸としてまとまり、熱気のある物語を紡ぎあげるのを期待したが、そこまでは行かず、残念。
 ただし、本作の文芸設定ゆえの、ちょっと一風変わった筋立てや描写は用意されてはいる。

 前述のとおり、実質10冊目前後の作品なので、文章はそれなりに風格が出てきて(サクサク読みやすいが)、作品のスタイルだけいえばA級作品っぽい。ただ、中味の方はまあ佳作、だろうね。某サブキャラと主人公ワイアットの後半の関係性は、もうちょっと押してほしかった気もする。

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