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ミステリの祭典

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鳩の撃退法

作家 佐藤正午
出版日2014年11月
平均点5.00点
書評数1人

No.1 5点 パメル
(2022/09/28 08:18登録)
地方都市に暮らす津田伸一は、コンパニオンの女性を車で送迎する仕事についていた。ある時、懇意にしていた古書店主の老人が亡くなり、形見のキャリーバッグを受け取ったところ、中に入っていたのは、古本のピーターパンと絵本、それに三千万円を超える札束だった。老人は、なぜ大金入りの鞄を自分に渡したのだろうか。
だがやがて津田は、働いている店の社長から思いもよらない話を聞かされる。町では偽札事件が巻き起こっており、そのお札の出どころは津田自身ではないかというのだ。しかも、一年前に一家三人が失踪した事件と今回の騒ぎに繋がっているらしい。
本作は、小説家だった津田が、一連の出来事を文章におこしている、というスタイルで出来上がっている。なにか裏社会に関係した犯罪と絡んでいるなとにおわせつつ、話は現在と過去を行き来するため、なかなか事件の全貌が見えない。
一方、ページごとに笑いを誘うくすぐりや、気の利いた言葉遊びが連打されている。そのほか古本のピーターパンの男たちの間で回っていく筋立てをはじめ、主人公の勘違いぶりや再起への道など、ストーリーの要約だけでは紹介しきれない妙味が随所に詰まっている。
そして、人間関係の綾と物語の断片がすべて繋がるラスト。作者ならではの、酒悦で愉快で寓話めいた世界を堪能できる。

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